6時頃起床。チェックアウト時に宿の人の姿がなかなか見えなかったのに苛つきながらも、6時45分、同室だった姉妹と三人で、傘をさしながら外に出た。しのつく雨が、バッグやジーパンの色をみるみるうちに変えていく。
今日も列車に乗って旅がスタート。羊の群れ、山あいまで続くジャガイモやトウモロコシの畑、山から山へと泳ぎ行く霧、「MARUSEPPU STATION」の駅表示…。やがて、先日とはまるで違う空の遠軽に到着。
朝食は380円のカレーライスを駅前の食堂でいただき、再び石北本線の乗客に。駅間距離が長く、列車の待ち合わせも多い区間を走る。生田原-金華間には常紋という名の信号場があり、見るからに縁起のよさそうな駅名の金華には、なぜか「Dr.スランプ」の登場人物を使った大きな看板が見えた。
こちらは難読駅名の留辺蘂(るべしべ)で特急列車との交換待ち合わせ。ふと気づいたが、特急「おおとり」は遠軽で方向転換、また札幌でも方向転換と、つごう二度も座席の向き変えを余儀なくされるのだろうか。その検証のためにも、また石北本線、それも「おおとり」を選んで乗ってみたいものだ。
新興住宅地を抜け、薄日が差し始めた北見から、大勢の客がこの網走行き普通列車に乗り込む。平地が広がり、花壇の美しい緋牛内や、網走湖を通過。
今回の乗りつぶし、石北本線踏破達成駅の網走は、前回のあの祭りの日と同様に、青空を広げて再訪を迎えてくれた。同じ道内でも美唄付近では、大雨による水害のため鉄道が不通になっていると報じられているのに。
この町が常に見せてくれる明るいイメージに感謝しつつ、それでも今回はお土産を買う時間もそこそこに、石北本線の乗客へとすぐさま戻らねばならないスケジュール。女満別では列車でさえ急いているのか、なんと発車予定時刻よりも前に走り出すハプニングも(すぐに停車し、とって返したが)。
掛け軸と日本人形が飾られた美幌の駅前は観光一色だが、ちょっと歩くだけでごくありふれた地方の町に。ピラフ・エビフライ・サラダのセット(700円)という豪華な昼食をお腹に入れ、次は相生線に初めての乗車。
麦畑もあるが、最も目に付くのは大根とおぼしき畑(ビートこと、サトウダイコンとは微妙に違う気がした)。久々の道東らしい風景と、農薬や肥料の匂いが単行列車を包む。
「津別峠は津別駅からバス30分、さらに徒歩五時間!?」「高校前というバス停のような名の乗降場で、テニスラケットを持った女子三人組がキャーキャー言いながら下車」「開拓という乗降場の名も、なかなかユニークである」
いずこの終着駅も同じ、スタンプ台やきっぷ売り場に鉄道好きが群がる北見相生。阿寒湖へはバス25分とあるが、そのバス停まで駅から15分も歩かねばならない。鉄道がもし、湖畔まで延長されていたら…と、思いを馳せないわけにはいかない。現実にはここもまた、廃止対象の最有力候補である特定地方交通線の第一次線区に指定されており、さらに五十音順でもアルファベット順でも、リストのトップに上がるという路線である。
どこかで大雨のため不通という報道が信じられないような、砂埃さえ舞う相生の町は、あくまで静まり返っていた。
折り返しでは津別から、美幌の手前の旭通乗降場まで寝息を立て、再び強い陽射しが照り返すようになった美幌へ。次はこれまた初乗車となる池北線に乗るために、北見まで行かなければならなかったが、その列車が発車するまで少し時間がある。レモン46個分のビタミンCが含まれているという120円の炭酸飲料をむせながら喉に流し込み、駅の外に出ると、そこでは乗ってきたばかりの相生線の、廃止反対集会が行われていた。
「国鉄はただ赤字だという、その一つのために廃止しようとしている」
「住民の気持ちを、考えてない」
「これも自民党が、総選挙で過半数を占めたからだ」
「国鉄の経営体制の改善を望む」
聴くとはなしに聴衆にまぎれていた私に、NHKのテレビカメラが向けられているのに気が付いた。全国のお茶の間にこのマヌケ顔が流されるのだろうか。いや、よくて道内、せいぜい道東地区限定ニュースになるのが関の山だろう。
北見でも池北線に乗るまでに時間があり、コインロッカーに200円を入れて大きな荷物を預け、街の散策に繰り出した。○に「い」の字がトレードマークの「まるいいとう」、なぜかシャッターが下りている年中無休の書店、あの大型商業施設が北見にもあるのか、と思わせる「2条パルコ通り」など(実際にあるかどうかは確認せず)。官公庁や商店などもそれなりに集積しているようだが、建物がそれぞれ余裕を持って立っているせいか、ガランとした印象を感じる街である。
きたみ東急百貨店の新築工事も行われていた(2007年に閉店)。
容器込みで270円の月見そばを夕食用に持ち込み、やっと池田行き列車の中へ。これで池北線を踏破し22時03分池田着、その後は池田23時41分発の急行「狩勝8号」に乗って、根室本線完乗を兼ねて一夜かけて札幌に向かい、道東の旅をしめくくる予定である。
しかしながら昼に聞いた美唄近辺の鉄道線不通のニュースは、夜に入ってもあらたまる気配がないよう。それがまるで別世界であるかのごとく、青みさえ覗かせている空はゆっくりと暮れなずみ、いたって静かで平和な夜がここでは始まろうとしている。
道東にしては比較的水田が多いが、あとは各種の畑と牧場など、きわだった特徴のない沿線風景。闇も深くなってきて、本に目を落とすことにする。
ふと、訓子府駅で存外に長く停車していることに気づく。北見方面行きの交換列車が遅れているのであろうか。こちらの列車もやっと走り出す。置戸-小利別の長い駅間を過ぎてから、雨粒が窓を覆うようになった。
陸別でも10分遅れ、ガラガラの夜汽車は、濡れた窓越しに街灯の明かりだけがこうこうと輝く足寄をそろりと発車。もう何分遅れているのだろう。
「狩勝8号」は、運休とのこと。
せめて滝川まででも走ってくれれば、の願いむなしく、根室本線内の滝川-芦別間も不通になっていると聞かされては、なすすべもない。もちろん今夜寝るところの予定は白紙に戻ってしまったが、池田から帯広まで足を延ばせば、街なかにホテルの空室のひとつも見つけられるだろう。そんなふうに、たかをくくっていた。
ところが、帯広駅待合室の床や椅子の上に、魚市場の魚体のごとく並ぶ寝袋の群れを前にして、その期待は打ち砕かれた。しょんぼりと、プラスチック製の椅子三個分の空きにユースホステル用のスリーピングシーツを敷き、寝間着を入れた袋を枕にし、寝床を作った。椅子の硬さや曲線にこちらの身体を合わせなければならない不自由さ。足だって伸ばすことはできない。でも横になれるだけマシか。
つきっぱなしのテレビからは大雨情報が絶え間なく流れ、消える気配のない天井の明かりにも悩まされたが、疲れと諦めの気持ちが、いつの間にか寝入りにつかせてくれたらしい。NHKだって、あの相生線廃止反対集会の映像を流すどころではなかっただろう。
<今日の行程>
白滝0710-0810遠軽0853-1154網走1210急行大雪6号-1243美幌1348-1453北見相生1515-1615美幌1652-1722北見1829-2203池田2209-2241帯広
今日も列車に乗って旅がスタート。羊の群れ、山あいまで続くジャガイモやトウモロコシの畑、山から山へと泳ぎ行く霧、「MARUSEPPU STATION」の駅表示…。やがて、先日とはまるで違う空の遠軽に到着。
朝食は380円のカレーライスを駅前の食堂でいただき、再び石北本線の乗客に。駅間距離が長く、列車の待ち合わせも多い区間を走る。生田原-金華間には常紋という名の信号場があり、見るからに縁起のよさそうな駅名の金華には、なぜか「Dr.スランプ」の登場人物を使った大きな看板が見えた。
こちらは難読駅名の留辺蘂(るべしべ)で特急列車との交換待ち合わせ。ふと気づいたが、特急「おおとり」は遠軽で方向転換、また札幌でも方向転換と、つごう二度も座席の向き変えを余儀なくされるのだろうか。その検証のためにも、また石北本線、それも「おおとり」を選んで乗ってみたいものだ。
新興住宅地を抜け、薄日が差し始めた北見から、大勢の客がこの網走行き普通列車に乗り込む。平地が広がり、花壇の美しい緋牛内や、網走湖を通過。
今回の乗りつぶし、石北本線踏破達成駅の網走は、前回のあの祭りの日と同様に、青空を広げて再訪を迎えてくれた。同じ道内でも美唄付近では、大雨による水害のため鉄道が不通になっていると報じられているのに。
この町が常に見せてくれる明るいイメージに感謝しつつ、それでも今回はお土産を買う時間もそこそこに、石北本線の乗客へとすぐさま戻らねばならないスケジュール。女満別では列車でさえ急いているのか、なんと発車予定時刻よりも前に走り出すハプニングも(すぐに停車し、とって返したが)。
掛け軸と日本人形が飾られた美幌の駅前は観光一色だが、ちょっと歩くだけでごくありふれた地方の町に。ピラフ・エビフライ・サラダのセット(700円)という豪華な昼食をお腹に入れ、次は相生線に初めての乗車。
麦畑もあるが、最も目に付くのは大根とおぼしき畑(ビートこと、サトウダイコンとは微妙に違う気がした)。久々の道東らしい風景と、農薬や肥料の匂いが単行列車を包む。
「津別峠は津別駅からバス30分、さらに徒歩五時間!?」「高校前というバス停のような名の乗降場で、テニスラケットを持った女子三人組がキャーキャー言いながら下車」「開拓という乗降場の名も、なかなかユニークである」
いずこの終着駅も同じ、スタンプ台やきっぷ売り場に鉄道好きが群がる北見相生。阿寒湖へはバス25分とあるが、そのバス停まで駅から15分も歩かねばならない。鉄道がもし、湖畔まで延長されていたら…と、思いを馳せないわけにはいかない。現実にはここもまた、廃止対象の最有力候補である特定地方交通線の第一次線区に指定されており、さらに五十音順でもアルファベット順でも、リストのトップに上がるという路線である。
どこかで大雨のため不通という報道が信じられないような、砂埃さえ舞う相生の町は、あくまで静まり返っていた。
折り返しでは津別から、美幌の手前の旭通乗降場まで寝息を立て、再び強い陽射しが照り返すようになった美幌へ。次はこれまた初乗車となる池北線に乗るために、北見まで行かなければならなかったが、その列車が発車するまで少し時間がある。レモン46個分のビタミンCが含まれているという120円の炭酸飲料をむせながら喉に流し込み、駅の外に出ると、そこでは乗ってきたばかりの相生線の、廃止反対集会が行われていた。
「国鉄はただ赤字だという、その一つのために廃止しようとしている」
「住民の気持ちを、考えてない」
「これも自民党が、総選挙で過半数を占めたからだ」
「国鉄の経営体制の改善を望む」
聴くとはなしに聴衆にまぎれていた私に、NHKのテレビカメラが向けられているのに気が付いた。全国のお茶の間にこのマヌケ顔が流されるのだろうか。いや、よくて道内、せいぜい道東地区限定ニュースになるのが関の山だろう。
北見でも池北線に乗るまでに時間があり、コインロッカーに200円を入れて大きな荷物を預け、街の散策に繰り出した。○に「い」の字がトレードマークの「まるいいとう」、なぜかシャッターが下りている年中無休の書店、あの大型商業施設が北見にもあるのか、と思わせる「2条パルコ通り」など(実際にあるかどうかは確認せず)。官公庁や商店などもそれなりに集積しているようだが、建物がそれぞれ余裕を持って立っているせいか、ガランとした印象を感じる街である。
きたみ東急百貨店の新築工事も行われていた(2007年に閉店)。
容器込みで270円の月見そばを夕食用に持ち込み、やっと池田行き列車の中へ。これで池北線を踏破し22時03分池田着、その後は池田23時41分発の急行「狩勝8号」に乗って、根室本線完乗を兼ねて一夜かけて札幌に向かい、道東の旅をしめくくる予定である。
しかしながら昼に聞いた美唄近辺の鉄道線不通のニュースは、夜に入ってもあらたまる気配がないよう。それがまるで別世界であるかのごとく、青みさえ覗かせている空はゆっくりと暮れなずみ、いたって静かで平和な夜がここでは始まろうとしている。
道東にしては比較的水田が多いが、あとは各種の畑と牧場など、きわだった特徴のない沿線風景。闇も深くなってきて、本に目を落とすことにする。
ふと、訓子府駅で存外に長く停車していることに気づく。北見方面行きの交換列車が遅れているのであろうか。こちらの列車もやっと走り出す。置戸-小利別の長い駅間を過ぎてから、雨粒が窓を覆うようになった。
陸別でも10分遅れ、ガラガラの夜汽車は、濡れた窓越しに街灯の明かりだけがこうこうと輝く足寄をそろりと発車。もう何分遅れているのだろう。
「狩勝8号」は、運休とのこと。
せめて滝川まででも走ってくれれば、の願いむなしく、根室本線内の滝川-芦別間も不通になっていると聞かされては、なすすべもない。もちろん今夜寝るところの予定は白紙に戻ってしまったが、池田から帯広まで足を延ばせば、街なかにホテルの空室のひとつも見つけられるだろう。そんなふうに、たかをくくっていた。
ところが、帯広駅待合室の床や椅子の上に、魚市場の魚体のごとく並ぶ寝袋の群れを前にして、その期待は打ち砕かれた。しょんぼりと、プラスチック製の椅子三個分の空きにユースホステル用のスリーピングシーツを敷き、寝間着を入れた袋を枕にし、寝床を作った。椅子の硬さや曲線にこちらの身体を合わせなければならない不自由さ。足だって伸ばすことはできない。でも横になれるだけマシか。
つきっぱなしのテレビからは大雨情報が絶え間なく流れ、消える気配のない天井の明かりにも悩まされたが、疲れと諦めの気持ちが、いつの間にか寝入りにつかせてくれたらしい。NHKだって、あの相生線廃止反対集会の映像を流すどころではなかっただろう。
<今日の行程>
白滝0710-0810遠軽0853-1154網走1210急行大雪6号-1243美幌1348-1453北見相生1515-1615美幌1652-1722北見1829-2203池田2209-2241帯広