6時ちょうどに起床し、おそらくユースホステルとしては最高峰の朝食にありついた。パイナップル、スイカ、メロン(こんな美味しいメロンを食べたのは初めて)、そしてミカン(これは明らかに缶詰のミカンだったが…)などのフルーツが豊富で、それにハムエッグにツナサラダ、ミルクが付くというもの。これでパンがもう少し美味しければ言うことなしなんだけどね。緑にあふれる窓辺から、気の早い蝉時雨が降り注ぐが、天気は薄曇り。
 9時過ぎにユースを出てバス、地下鉄を乗り継ぎ、自分が口座を持っている銀行(都市銀行)の支店で1万円をおろす。あらためて札幌の街を思う。旭川以下、ほかの道内の都市とは明らかに規模だけでなく、センスまで違っている。東京での流行がほとんど同時に入り込み、内地の大都市と変わらない洗練された雰囲気をかもし出している。極論になるが都市生活に慣れた人であれば、北海道であれば札幌以外の街に住むことは、おそらく考えられないであろう。しかし私は街並みには惹かれても、冬の寒さと積雪を思うと、たとえ大都市であっても北国に移住することにはためらいを覚えてしまう。何しろ、生まれ育った東北の冬に耐えられず、上京したようなものだから。それをはるかにしのぐ厳冬は、決して体験したくないのだ。
 札幌駅のホームにて、ずんぐりむっくりのコカ・コーラ(350ml・110円)を初めて買う(当時は東京や東北では、250mlのスリム缶が主流であった)。次いで100円のアイスクリームを…。ああ、いかんいかん。せっかくの札幌、噂の雪印パーラーのロイヤルスペシャルを味わってもいいのに、それを体験せぬまま街を離れてしまうのか。

 釜谷臼(現在のあいの里公園)のあたりは、ここも札幌市内なのかと思うほどの原野が広がっていた。馬が遊ぶ広い川原を備えた石狩川を渡り、石狩当別で気の遠くなるほど停車し、あっという間に12時近く。風は涼しく、ここ数日の暑さは感じられない。後年、その校舎の前に駅がつくられることになる東日本学園大学(現・北海道医療大学)の前を過ぎ、山と平原に挟まれたところを通る。笹の葉が風に揺れ、草の匂いでむせ返るような本中小屋。
 ここにも円山公園なるものがある石狩月形より先は、どんどん山の中に入っていくよう。人家も少なくなる。と思うと札比内でまた平原に戻り、水色のボンネットバスが見えた晩生内、蝉のシャワーに包まれる札的。そして浦臼から先は、田んぼや畑が広がる風景が続く。
 かつて、留萌本線の石狩沼田まで通じていたことから「札沼線」と名付けられたこの線区は、私が乗りつぶした当時はすでに、新十津川で線路が断ち切られてしまっていた。売店もなければ、駅前商店というものも見当たらないこの終着駅で10分遅れのバスを待ち、酒造会社のレンガ造りの建物を眺めながら石狩川を東へと渡り、滝川に到着した。

 バスを待っていた時から雨が降り出してきており、風も強くなっていた。天気は確実に下り坂であった。
 昨日まで陽の当たる側を避けて腰を落ち着けていた函館本線だが、今日は南側でもまったく暑くない。窓を閉め切っていても平気なくらいだ。
 ほんの二日前、真夏の陽気に彩られていた旭川も、今は涼しい雨に支配されている。15時40分発の網走行に乗車。雨粒にあっという間に覆い尽くされた窓。時々小やみになる頃を見計らって外の景色に目を凝らすのだが、石北本線から見えるのではないかと期待していた大雪連峰はよく見えない。それでも愛別より先は山がちになり、安足間の駅名とその手前で見えた「アイヌモシリ」という文字を不思議に思ったりする。
 上川で280円の天ぷら蕎麦を立ち食いし、「営林署統廃合反対」の看板を眺め…気になっていたのは列車の遅れ。交換列車の遅れとやらで少しずつ、この下り列車にも影響が出始めていたが、天幕で「前の列車が止まっている」とのアナウンスがあり、それは一時間近くも前を走る急行「大雪3号」のことかと驚く。
 自分の列車は結局定時より40分ほどの遅れで、18時10分頃天幕駅を発車。ここからいよいよ山中という感じで、谷川のほとりの中越。「前の列車がまだ(この次の駅の)上越に到着しておりませんので…」え、それはやはり「大雪3号」なのか!?
 夕闇が迫る中、蛾だか蝶だかわからぬ生き物が濡れたガラス窓で羽をばたつかせている。私が降りる駅は白滝で、定時だと18時25分到着。ユースホステルの門限は20時までで、夕食は予約をしていなかったから相応の時間の余裕はあったが、携帯電話もなかった時代、遅れを伝える手段をどうしようかと悩むことを考えると、人心地がつかなかったのは確かであった。何しろ、このあたりは寂しい山あいの路線。駅にさえ公衆電話があるか、あやしいものであった。

 やっと白滝を降りても、国道からユースまでの道は人家の明かりすら見えない。時々自動車のライトが脇をかすめる程度。背の高いトウモロコシの群れがワサワサと揺れたりするのにもおびえたりしたから、駅から25分ほどでユースの明かりが見えた時は、心底ホッとした。
 今夜この宿には男女各三名が泊まるとのこと。私のほかの女性客は姉妹の旅行者で、当然一緒の和室におさまった。ミーティングなし。食事は旅館並み(私は食べなかったが)、お風呂も広く、旅館によくあるアーケードゲーム機も数台置かれている。自販機も牛乳からコーヒー、ビールまで。私は70円の「よつ葉3.4牛乳」を飲んで、11時頃就寝。


<今日の行程>
札幌1034-1323新十津川1338=1400滝川1418-1518旭川1540-1825白滝