本書は腸内造血・赤血球の万物変化の千島学説を提唱した千島喜久男博士の遺稿であり、夫人がそれをまとめて出版した事実上の最終作である。故に多少重複や繰り返しが多いものの、どれも情熱に溢れ読み応えがある。

 

本書に一貫しているのは、今の世界は東洋も西洋も男系社会であり、男の価値感・ヒエラルキーによる理性重視・力重視の左脳型の社会である。しかしそれによって、差別や階級が生まれ、物質文明は巨大に発展したかもしれないが、深刻な地球環境破壊と核兵器などによる文明の存亡を憂う結果となっている。人類の歴史をよくよく調べてみると、5000年前は東洋も西洋も女系社会であり、女が経済や実権を握る女性中心の社会であった。しかもその頃の社会は争いがほとんどなく平和や融和で彩られた温厚な社会であった。千島博士は腸内造血とともに、ものごとは螺旋状に進歩するという理論も唱えている。5000年経った今、人類は女性文明に回帰する時であるし、女性の生命尊重、感覚重視こそが地球存続の鍵であるという主張だ。

 

本書は、男尊女卑が当たり前であった50年近く前の昭和に書かれた書物にしては革新的であり、古今東西、歴史上で活躍した女性を権力者であろうと名もなき庶民であろうと徹底的に女性側に立って擁護する主張がなされていて、それがなんとも清々しいというか痛快である。

 

しかも、もう一つ大きな特徴は、フェミニズムと呼ばれる現代の女性解放運動を、ようやくこういう時代が来たと評価しつつも、細かく分析して、5000年前の女性中心文明への考察が足りず、マルクスの唯物論的であり、男性社会の枠内で女性の権利を主張していると及第点を与えていない。今でこそそういう批判はなされるようになったが、50年前はそういった視点は皆無であり、非常に考察の鋭さと俯瞰したものの捉え方がなされている。

 

話は人間だけではなく、動物など生物の世界からも、いかにメスが重要なのかという主張がなされていて、オスがメスを従わさせるという価値観が、生物全体の世界からするといかに異端でありレアケースであるかが詳細に語られている。千島博士はもともと獣医であり、鶏の卵の研究から千島学説を発表している。

 

話は、各国の神話、宇宙存在の有無、現在流行の日月神示、量子力学、宇宙存在の有無、オカルト現象など、現在で言うスピリチュアルの領域からも考察され、とても50年近く前に書かれた本だとは思えない先進性である。

 

千島博士は、食は血となり肉となるという赤血球があらゆる細胞に変化するという事実を映像で配信するという現在では主流の方法を当時やって証明しようとしたが握り潰されてしまった。医学会は21世期になった現在でも、骨髄造血、細胞分裂、遺伝の永続性以外の学説を認めず過ちを繰り返している。この本は、医学の物理現象がダメなら、哲学、社会学、歴史から世の中をひっくり返そうとする千島博士の執念というかものすごく大きな情熱が伝わってくる。

 

ただ一点残念なのは、現在では否定的な評価が多方面でなされ、時代遅れとなっているフロイト心理学の男根願望、父親殺し、夢診断、性抑圧のヒステリー などを絶対視している点である。

フロイトの学説は確かに新規性を持っていたが、ん、あれ、おかしいぞという声が各地から上がり、現在は国際金融資本が仕掛けた一種のプロパガンダではないか(フロイトはユダヤ人)と指摘している人もいる。それは極論と置いておいても、残念な点である。