のんき裁判 その2
前回に引き続き、新東宝オールスター映画「のんき裁判」(55年)である。
花柳小菊の「悩殺罪」の裁判からだが、証人として角梨枝子、島崎雪子、南風洋子、関千恵子がズラズラ登場。弁護人は坊屋三郎である。裁判長は大河内傳次郎、検事は田中春男だが、ここに堺駿二がもう一人の検事として加わる。
この裁判が終了すると、場面は夜に切り替わる。静かな法廷の中に酔っ払いが乱入しくる。彼は自分は榎本健一であると名乗るのだが、三人の守衛たちは、この酔っ払いのオジサンが大スターエノケンだとは信じようとしない。そこへ、ここの給仕だという若い娘も「オジサンの弁護してあげるよ」などと言い出す。キャスト表などを見ると守衛役は横山運平、冬木京三、永井柳太郎の三人、給仕の娘は美雪節子という人のようだ。冬木は何回か前に紹介した日活「トップ屋取材帖」では、麻薬組織のボスをやっていた。
美雪節子は初めて聞いた名だったが、どうやらSKDの出身で「美雪さゆり」から改名して新東宝からデビューした女優のようだ。デビュー作である「君ゆえに」では、中山昭二、安西郷子に次ぐ三番手クレジットで(新スター)の但し書きが付いていたようだ。他作品でも割合上位にクレジットされているので、あまり知られている存在ではないのが不思議だったが、その名が見られるのは54~55年の2年間のみなのである。また芸名を変えたとかいう可能性もあるが、早期に引退してしまった可能性の方が強そうである。
この場面ではもう一人、記者役で上原謙が登場する。彼がこのオジサンを「榎本さん」と呼んだことで本物のエノケンだったことがわかる。カツラと眼鏡を取ると誰もが知るエノケンの姿になり、一曲披露するのだった。
最後に被告として満を持して登場するのが森繁久彌である。裁判長は藤田進、検事は田崎潤の大声コンビに戻り、弁護士として登場するのは柳家金語楼である。藤田と田崎に散々「ハゲ」といじられ、退廷させられるのだが、そこで森繁が自己弁護を開始する。その半生を紙芝居形式(映像的には回想)で語り出すのである。ロシアから始まり、中国やモンゴルなどを渡り歩き、その国っぽく聞こえるデタラメな言葉を披露する。回想の中での相手役は筑紫あけみで、新東宝スターレットの2期生である。長い森繁の語りが終わった後、大河内裁判長が再登場。判決は「全員、新東宝への終身刑を命じる」というもので、そのままフィナーレへとなだれ込む。そこで、香川京子などは初めて姿を見せる。
ところで、本作には「改題縮尺版」が存在する。改題縮尺版とは読んで字のごとく旧作タイトルを改題して、本編を数十分カットした短縮版のことである。さも新作であるかのように見せかけるのだ。他社でもあるのだが、やはり大蔵時代の新東宝作品が多かったようである。この「のんき裁判」も約6年後に「森繁・高島・小林の色男三人野郎」(60年)と改題され、オリジナル91分が63分に短縮されたものが公開されている。もちろん、その中を見たことはないが、タイトルから第1の裁判である高島忠夫・小林桂樹が被告の部分と最後の森繁が被告の部分を繋いだものであろう。ただそれだけだと10分ほど足りないので、他の部分からも使っていると思われる。この改題短縮版は柳家金語楼ものが特に多いように思う。「あきれた娘たち」(49年)が「金語楼の子宝騒動」(57年)へ、「青春デカメロン」(50年)が「爆笑交狂楽」(57年)へ、「おやおや人生」(51年)が「金語楼の豚馬社長」(57年)へ等の例がある。