黒い河 | お宝映画・番組私的見聞録

黒い河

今回は仲代達矢繋がりで「黒い河」(57年)である。前回の「青い野獣」(60年)や「野獣死すべし」(59年)などもそうだが、初期の仲代は主演で悪党というかワルを演じることが多かった。彼の本格的な映画デビューは日活の「火の鳥」(56)だが、悪党役は今回の「黒い河」が初めてではないだろうか。
人呼んで「人斬りジョー」というのが今回の仲代の役どころで、ヤクザというか愚連隊のリーダー的な存在である。明らかに年上な富田仲次郎山口)や佐野浅夫坂崎)がその仲間だったりする。
舞台は厚木基地の周辺で、そこに存在する当時でもオンボロな長屋「月光荘」である。そこに苦学生である渡辺文雄演じる西田が入居するところから始まる。彼が駅で道を尋ねたのが本作の主演である有馬稲子(静子)だったのである。その辺には似合わない日傘をいつもさして優雅に歩いている一見どこかの令嬢風である。実は喫茶でウェイトレスとして働いているのだが、とにかく目立つ。そんな彼女にジョーは目をつけるのであった。西田も彼女に一目惚れ状態で、次第に仲良くなっていく。それを目撃したジョーは強行手段に出て静子を仲間に襲わせ助けるふりをして彼女を抱いたのだった。後に彼女がその事を知るとジョーへの殺意が芽生えたのだった。ジョーの誕生日という名目で、静子と西田は招待される。ほろ酔い気分で外へ連れ立って出るジョーと静子。その数メートル後を西田桂木洋子演じるジョーの情婦である幸子が歩いていた。彼等の後方から米軍のトラックが走って来た。静子の計画を聞いていた西田は止めようと走り出すのだが、彼女はジョーを迫りくるトラックに向かって突き飛ばした…。というのが大雑把なあらすじだ。
何と言っても有馬稲子が美しい。本作で清楚な(感じの)美女として登場するのは彼女だけなので、余計に引き立つ。淡路恵子桂木洋子も出ているが、あばずれた役なのである。いつも清純な役のイメージである桂木のこういう役は珍しい気がする。本作は企画が「にんじんくらぶ」だ。知ってる人も多いだろうが、にんじんくらぶとは有馬岸惠子、久我美子によって54年に結成された映画制作プロダクションである。桂木も後に加入している。
有馬稲子に関して調べたことがなかったのだが、仲代と同じ32年生まれで、本名は中西盛子(みつこ)。実の両親は労働運動を行い隠れて暮らすような日々を送っていた為、見かねた祖母が伯母の下へ連れて行ったのである。伯母夫婦には子供がおらず、盛子はそこで養女となったのである。実はこの伯母が宝塚歌劇団出身で、有馬稲子の芸名で活動していた過去があったのだ。そのことを盛子は自分が宝塚に合格するまで知らなかったという。宝塚も伯母の勧めだったわけではない。とにかく彼女には(二代目)有馬稲子の名が与えられることになったのである。
渡辺文雄は当時28歳。まだ、ほっそりとした二枚目だが学生には見えない感じだ。やはり本作は「月光荘」の住民の顔ぶれが凄い。前述の佐野、富田、淡路に加えて宮口精二、東野英治郎、永井智雄、小笠原章二郎、そして高橋とよ、三戸部スエ、賀原夏子、菅井きんなど。三戸部、賀原、菅井は当時30代だが、とてもそうは見えない。若い頃も後のイメージとあまり変わらない。菅井(当時31歳)など、年齢相応の役なのか当時から老け役なのかはっきりしない。そして、「月光荘」の家主役である山田五十鈴。出っ歯に見える入れ歯(付け歯?)を装着しての登場である。当時の役者は役のために歯を抜いたりすることもあったと話には聞くので、自己判断か不明だが、そのくらいやっても不思議ではない。
当時のポスターは、よく見ると前述のラストシーンを表している。半分はトラックだし、その横で有馬とのけぞっている仲代の姿。「私がジョーを殺す!」の文字もあるし、普通にネタバレであろう。