中村敦夫の出演映画 その3 | お宝映画・番組私的見聞録

中村敦夫の出演映画 その3

引き続き中村敦夫である。
70年の出演作品には「幽霊屋敷の恐怖 血を吸う人形」がある。岸田森の項で紹介した「血を吸う」シリーズの第1作である。2、3作目の吸血鬼を岸田森が演じていたが、1作目は誰かというと中村敦夫ではない。東宝の若手女優だった小林夕岐子である。東宝ニュータレント6期生で、同期に菱見百合子、牧れい、九条亜希子、小西まち子など特撮ヒロインになったメンツが多い。父は水島道太郎、母はタカラジェンヌだった山鳩くるみ。「ウルトラセブン」へのゲスト出演(アンドロイド少女)や「怪獣総進撃」「南海の大決闘」といいた東宝特撮への多かったことからの抜擢であろうか。
「血を吸う人形」では小林の婚約者だったのが中村である。彼女に会いにその屋敷を訪れたまま行方知れずになる。その消息を追って、妹である松尾嘉代と恋人である中尾彬が屋敷を訪ねる。といったストーリーで、結局中村は死んでいたので、松尾、中尾コンビが主役という感じになる。他の出演者は宇佐美淳也、南風洋子、高品格、浜村純など。
71年は大島渚監督の「儀式」に出演。製作は大島が率いる創造社で配給はATGである。大島がどこからか俳優座の異端児であった中村に目を付けたらしい。主演は河原崎建三と賀来敦子で、他に大島の妻である小山明子、創造社のメンバーでもある小松方正、戸浦六宏、渡辺文雄、大島作品常連の佐藤慶、殿山泰司、乙羽信子、小沢栄太郎など。建三の実母である河原崎しづ江も出演しているが、本作が最後の出演作品となっている。賀来敦子は詳細不明だが、62~63年にかけて数本のドラマ、映画への出演記録があるが、64年以降はなく本作で復活した形となっている。
物語は「テルミチシス テルミチ」という奇妙な電報で始まるが、そのテルミチ(立花輝道)を演じるのが中村である。
また、この71年にはNHK大河ドラマ「春の坂道」に石田三成の役で出演。しかし、初任給1万5千円程度の時代にギャラが1本4千円という安さで、しかも週に5日拘束されてしまうということで、「一刻も早く処刑されて消してほしい」という異例の申し出をしたという。ギャラは安くても、天下のNHKで目立つ役をやるのは光栄だというのが常識だったので、当然関係者は激怒し、お望み通り降板させようと思っていたところに、中村へのファンレターが多くNHKに届き始めたのである。マスコミからの取材も殺到し、NHKもその人気を無視できなくなり、5~6話だった出演予定が16話に伸ることになったのである。普通なら役者として嬉しい誤算という出来事だが、中村にとっては薄給で4カ月働かされることになったので、非常に迷惑だったと語っている。
また俳優座においては、中村ら中堅・若手が上演を希望した「はんらん狂騒曲」が幹部が反対したことで俳優座首脳との対立が決定的なものとなった。中村は劇団の許可を得ず「はんらん狂騒曲」の上演に踏みきったのである。公演が終了すると経済的に追い詰められ、すぐにでも収入を得なければならない状態となっていた。
幸いにも「春の坂道」で名が売れ、ドラマへの出演依頼が殺到していた。中村の答えは「ギャラの高そうなもので」。内容はなんでも良かったのである。劇団の映画放送部としてはそうもいかず、二本の連続時代劇ドラマに絞り込んだきたが「そちらで決めてください」と他人任せであったという。後日、それとは別に市川崑監督が時代劇の主役を探しているから会いに行けという。候補作があるのに、必要ないではないかと思ったが、巨匠の希望だからと渋々向かった。相手が自分を選んでくれる保障はこの時点ではなかったのである。
お分かりだと思うが、その時代劇こそが「木枯し紋次郎」である。市川監督は待ち合わせの喫茶店に中村が入って来たのを見た瞬間に彼を紋次郎役に決めたと言う。