中村敦夫の出演映画 | お宝映画・番組私的見聞録

中村敦夫の出演映画

今回からは、岸田森のところでも話題に出た中村敦夫である。自分の中では「木枯し紋次郎」はもちろん、「水滸伝」「必殺仕業人」「おしどり右京捕物車」といった少年時代に見た時代劇ヒーロー役者である。別に中村目当てで見ていたわけではなく、たまたまどれも彼が主役だったということである。
中村敦夫は40年生まれで、本名は敦雄。高校時代まで遠藤姓であったが、離婚により母方の中村姓を名乗るようになった。60年に東京外大を中退し、俳優座養成所に12期生として入所した。同期には山本圭、松山英太郎、東野英心(孝彦)、樫山文枝、長山藍子、芳村真理、応蘭芳などがいた。また1年後には出席日数不足などで留年した加藤剛、伊藤孝雄、成田三樹夫らが加わったという。
三年の養成期間を終え、63年に俳優座の準劇団員となる。そのまま俳優座に合格したのは中村、山本、東野ら男六人だけだったという。しかし、舞台ではチョイ役ばかりだったという。
64年に初の映画出演が決まった。小泉八雲原作の「怪談」である。制作は文芸プロダクションにんじんくらぶで、配給は東宝であった(一般公開は65年)。にんじんくらぶは54年に岸恵子、久我美子、有馬稲子の三女優によって設立。当時、岸は松竹、久我と有馬は東宝の専属だったが、五社協定による専属しばりから他社出演を実現させるための設立である。
「怪談」は「黒髪」「雪女」「耳無芳一の話」「茶碗の中」の4つの怪談話によるオムニバス作品。中村は「耳無芳一の話」のパートへの出演である。他の3パートに比べ出演者も多い。主演の芳一役は中村嘉葎雄で、他に丹波哲郎、志村喬、林与一、村松英子、田中邦衛、北村和夫、近藤洋介など。長山藍子もチョイ役で出ている。中村は戦死した幽霊の一人・平教経の役で、セリフは一行もなかったという。ただ監督の小林正樹を初めとする制作陣は中村を売り出す気でいたようで、新聞のインタビューが殺到していたという。
しかし、180分を超える上映時間も災いしてか海外では高評価だったが、日本では当たらなかった。これが原因でにんじんくらぶは倒産した。小林監督の次回作には「敦煌」が予定されていたが、これも無期限延期となった。実はこの作品で中村は大役を約束されていたというが、それも流れてしまったのである。
そんな中、大映から「新鞍馬天狗」出演のオファーが来た。主演は市川雷蔵で、共演は中村玉緒、藤巻潤。新選組は中村竹弥(近藤勇)、五味龍太郎(土方歳三)、浜田雄史(沖田総司)などで、中村敦夫も新選組の隊士・村尾真弓役でクレジットでは七番手。他に杉作役は「マグマ大使」のガム役で知られる二宮秀樹、新選組隊士にデビューまもない平泉成(当時は平泉征七郎)なども出演していた。浜田雄史は脇役専門で、ヤクザ一家の兄貴分・代貸といった役が多く、こういった二枚目役は珍しい。雷蔵や勝新とはデビュー作が一緒(花の白虎隊)なのだが、雷蔵の吹き替えを担当することも多かったという。本名を奥村俊雄というが、勝新の本名も奥村利夫と言い、読みが全く同じである。
中村は雷蔵との初対面時、作法を知らなかったので、土下座に近い挨拶をしたというが、雷蔵は「そんなに硬くならんでええよ」と気さくな感じだったそうだ。普段の見た目はあまり特徴のないサラリーマン風だったという。