大瀬康一の出演映画 その4 | お宝映画・番組私的見聞録

大瀬康一の出演映画 その4

引き続き大瀬康一である。62年の後半からだ。
「中山七里」は、長谷川伸原作の股旅もので、主演は市川雷蔵、中村玉緒で、大瀬はこの二人との共演は初だ。というかこれが初の時代劇出演ということになるのだろうか。本作は6月公開で「隠密剣士」は10月からなので、この時点では「月光仮面の人」なのである。中村玉緒が、雷蔵の自害した乳房と大瀬の駆け落ち相手の二役を演じている。他の出演者は柳永二郎、沢村宗之助、富田仲次郎など。
「長脇差忠臣蔵」は、市川雷蔵、勝新太郎を始めとした大映オールスターキャストによる時代劇。長脇差は「ながどす」と読む。「忠臣蔵」なのに、8月公開なのだが、ヤクザの仇討ちを「忠臣蔵」に見立てたものである。大作のように感じてしまうが、上映時間は71分と短い。「忠臣蔵」で言う浅野内匠頭にあたるのが宇津井健だが、宇津井は時代劇は少ないし、死ぬ役というのも少ない気がする。大石内蔵助にあたるのが当然、市川雷蔵であり、吉良上野介にあたるのが名和宏ということになる。実在の人物も何人か含まれており、勝新の大前田英五郎や本郷功次郎の有栖川宮、島田正吾の清水次郎長、そして大瀬康一の桂小五郎などがいる。他には小林勝彦、丹羽又三郎、林成年、友田輝、女優陣では藤村志保、阿井美千子、浦路洋子、近藤恵美子、月丘夢路、悪役となるのが名和の他は、上田吉二郎、嵐三右衛門、そして天知茂などである。
「あした逢う人」は本郷功次郎、橋幸夫主演の青春もので、タイトルは橋幸夫のシングルのタイトルでもある。ヒロイン役に叶順子、三条江梨子。橋と三条は高校三年生の役だが、当時は共に19歳で年相応の役だった。デビューが若いためもう少し年長なイメージがあった。前作の「江梨子」でのコンビであり、三条は魔子から江梨子に芸名を変えている。彼女は新東宝から59年に「シークレットフェイス」としてデビュー。別に覆面をしていたわけではなく、正確には「シークレットネーム」というべきか。翌60年から三条魔子を名乗り、61年新東宝の倒産により大映に移籍していた。最終的には魔子に芸名を戻し、71年の大映倒産と共に引退している。橋はデビュー3年目だが、この62年は13枚ものシングルをリリースしている。大瀬は平井という役だが、その役柄は不明だ。
「秦・始皇帝」は、タイトル通り秦の始皇帝の生涯を描いた大映オールスターキャストによる2時間40分の超大作。大映創立20周年記念作品で、「釈迦」に続く2作目となる70ミリ映画である。主演つまり始皇帝役は勝新太郎で、出演者クレジットは縦スクロール形式なので、正確にはピンではないが一人独立したピン扱いなのは勝の他、市川雷蔵、長谷川一夫、山本富士子、叶順子、山田五十鈴、若尾文子である。何気に叶順子が混じっているのが凄いが彼女は翌63年に引退。これは強い照明により眼を悪くしたためで、このままでは失明してしまう恐れがあったためだという。大瀬は趙の貴公子の役で、勝、本郷功次郎、川口浩、川崎敬三、宇津井健に続く6番手に名前がある。他にも高松英郎、根上淳、中村玉緒、東野英治郎、宮口精二、中村鴈治郎など。制作費もかかっているが興行的には失敗に終わったようである。
この辺りで、前述の様に大瀬に宣弘社から「隠密剣士」の声がかかるのである。恩義もあって、断れなかったということで、大瀬は映画の世界を一旦離れて、再びテレビの世界へと戻って行くのである。