東宝俳優録20 大村千吉
子役出身というと意外な感じがする役者がいる。少年時代がイメージしにくいという理由で石橋蓮司や大泉滉が筆頭だが、大村千吉も子役出身なのである。
大村千吉は22年生まれで、本名は大村撰吉という。父親が東家梅之助という芸人だった関係で幼少から寄席に親しみ、澤村三兄弟主演の「少年忠臣蔵」(33年)で映画初出演を果たす。澤村三兄弟とは、澤村宗之助、伊藤雄之助、澤村昌之助のことで、宗之助と昌之助は丸顔なのに、雄之助のみ顔の半分がアゴというような風貌である。彼らも大村と同世代であった。
34年に子役としてPCL(東宝)に入社。同年「あるぷす大将」に出演し、監督の山本嘉次郎に「千吉」という芸名を与えられる。この前年に入社し、山本に助監督としてついていた谷口千吉に合わせたのかもしれない。
「清水の次郎長」(38年)では、森の石松を演じるなどメイン級の時もあったが、まもなく金語楼劇団に移り舞台活動を中心としていた時期もあった。42年に応召され、終戦時は北京で馬匹調達にあたっていたという。
復員し東宝に復帰するが、山本組だった黒澤明の「酔いどれ天使」(48年)が復帰作のようである。役柄はヤクザの子分だった。あまり黒澤作品に出ていた印象がないが、「七人の侍」「生きものの記録」「蜘蛛巣城」「用心棒」など、いずれもチョイ役ではあるが出演している。
同じく山本組であった本多猪四郎の特撮作品にも「獣人雪男」(55年)を皮切りに「地球防衛軍」「美女と液体人間」「モスラ対ゴジラ」などに出演している。
その流れからか、「ウルトラQ」(66年)を始めとした円谷プロの作品にも出演するようになり、60年代終盤からはテレビが活動の中心となっている。この人の場合、痩せた体にギョロっとした目、酔っ払いなど正常でない状態の人間を演じているイメージが強いのだが、現に「ウルトラQ」の第1話「ゴメスを倒せ」にもアル中の建設作業員役で出演している。
正常でない人間と書いたが、その印象を強くしたのが「怪奇大作戦」(69年)での第24話「狂鬼人間」である。ここで大村は上半身裸で日本刀を持って暴れる狂人を演じているが、この姿が91年に販売されたLD「怪奇大作戦-恐怖人間スペシャル」のジャケットになっているのである。このため、大村千吉といえばこれみたいなイメージが強くなったと思う。
ただし、このLDは数カ月後には回収されることになり、以降発売されたソフトからは24話は姿を消してしまう。出版物からも24話は欠番となっています、の一言で「狂鬼人間」のエピソードは封印されてしまったのである。実は先のLDの帯には「もう二度と見れないかもしれない」という封印を予想していたかのようなコピーが書かれていた。やはり封印作品として有名な「ウルトラセブン」の12話と違って、こちらは封印までに20年の余裕があったこともあり、映像を見た人、入手した人も割合多いかもしれない。
さて話がそれたが、もちろん特撮以外にも時代劇、刑事ドラマなど大村は顔を出していたが、91年に69歳で亡くなっている。