日活ロマンポルノ史 田中登監督デビュー | お宝映画・番組私的見聞録

日活ロマンポルノ史 田中登監督デビュー

新しい記事を書くのは約1カ月ぶりである。週2の更新はしていたが、まとめて書いておいたのを切り分けてアップしていたのだ。まあ、そんなウラ事情はどうでもよいか。
「映画芸術」では、72年に初期50本ほどの中から選考したロマンポルノ・ベスト10をやったらしい。結果は、次のとおり。
1位「牝猫たちの夜」、2位「恋狂い」、3位「濡れた唇」、4位「色暦女浮世絵師」、5位「しなやかな獣たち」となっている。初期50本とはいえ、初期も初期の作品ばかりである。
1位の「牝猫たちの夜」は、新宿のトルコ風呂(現在はソープランドと言わないと怒られる)に働く三人の娘をややコミカルに描いたもの。主演は桂知子、吉沢健などで、桂知子は他に主演作というのは見あたらなく詳細は不明である。
監督は田中登。ロマンポルノ監督デビューは72年の2月「花弁のしずく」で、これはその次、つまり2作目である。
田中登は明大文学部出身で、同級生に作家の倉橋由美子、脚本家の田向正健らがいたという。その学生時代に、東宝撮影所の雑用のバイトにありついた。稲垣浩の「ゲンと不動明王」や本多猪四郎の「モスラ」、堀川弘通の「別れて生きるときも」、そして黒澤明「用心棒」などの現場についたという。
「用心棒」の現場では、三船敏郎は田中たち学生アルバイトを集めて話をするのが好きだったという。三船は「助監督になりたい?簡単には映画会社は入れんぞ」などと言っていたというが、この直後田中は日活の助監督試験を受けて、61年4月に入社する。
今村昌平監督の『「エロ事師たち」より・人類学入門』(65年)で、田中はサード助監督であった。ロケは釜ヶ崎(現・あいりん地区)で行われたが、その経験が後に田中が監督する「(秘)色情めす市場」(74年)で生かされることになる。
「(秘)色情めす市場」は、やはり釜ヶ崎を舞台にした作品で、主演は芹明香、その母親役が花柳幻舟、他に宮下順子なども出ている。実際は約2時間の作品だったが、ロマンポルノは1時間20分くらいが普通ということで、なくなく20分は自分でカットしたが、結局さらに20分会社側に切られたという。
そんな時、田中の元に電話があった。「釜ヶ崎見ましたよ。正直驚きました。あの元気さで東映オールスターで、1本撮ってもらえませんか」声の主は東映の敏腕プロデューサー俊藤浩滋であった。
田中もその話には飛びつきたい気持ちはあったが、すでに次回作「実録・阿部定」の日程も決まっており、とりあえずは曖昧な返事にしておいたのであった。