暗黒街 | お宝映画・番組私的見聞録

暗黒街

「暗黒街」とタイトルにつく60年前後の東宝作品は全部で7本あるのだが、岡本喜八の「暗黒街の顔役」「暗黒街の対決」「暗黒街の弾痕」の前にそのものズバリ「暗黒街」(56年)という作品がある。
暗黒街というとギャングというイメージだが、どう見ても「ヤクザ」という映画だ。その組長に志村喬、古参幹部に杉山昌三九、宮口精二、そして新参幹部が唯一ギャングな雰囲気を持つ鶴田浩二である。
杉山昌三九は戦前は大都映画のスターだった人だが、戦後は完全に脇役にまわっていた。ほぼ同年代の志村喬は戦前は主に日活京都などでの助演が多かった人だが、戦後になって主役スターになっている。ストーリーは要するに、組の中で勢力を伸ばしてきた鶴田を、邪魔に思った杉山、宮口らが排除しようとするという話。しかし、いわれなき嫉妬というわけではない。こういった映画では義理と人情の人といったイメージの鶴田だが、本作では実にKYでドライなヤツなので、他の組員の反感を買って当然だったのである。で、志村組長の情婦である根岸明美と、やはり組長お気に入りのインターン青山京子に鶴田が手を出した(といってもデートしたという程度)ことで、組長も激怒。杉山が鶴田を拳銃で二発食らわせ、抹殺かと思いきや殺しはしなかった。瀕死の鶴田を「死なせるんじゃねえぞ」と青山京子と共に監禁してしまうのである。
何故かと言えば、警察が怖かったから。新任の捜査主任・三船敏郎の監視の目が厳しく、ヘタに殺人などできなかったのである。
青山の前ではいい爺さんだった志村が徐々に組長としての本領を発揮して彼女を襲おうとし、直後に発作で卒倒する。宮口もそれを見て「何とかしろ!」と青山を殴りつける。あの「七人の侍」から、この時点ではわずか二年。あの正義感あふれる勘兵衛や久蔵が、こんな悪人に。対照的に暴れん坊だった菊千代が冷静で落ち着き払った警察幹部に、と当時の観客が思ったかどうかは知らん。三船と志村のツーショットシーンもあり、そこだけ見ると黒澤作品?と一瞬カン違いするかも(監督は山本嘉次郎)。
岡本喜八による「暗黒街の顔役」(59年)、「暗黒街の対決」(60年)も三船と鶴田の主演による作品となっている。「暗黒街の弾痕」の後、「暗黒街の牙」「暗黒街撃滅命令」「暗黒街全滅作戦」がありこの3作の監督は福田純であった。福田は「暗黒街」では監督助手を務めていた。