吸血蛾 | お宝映画・番組私的見聞録

吸血蛾

横溝正史原作で、割合マイナーな作品を映画化したものに「吸血蛾」(56年)がある。これも30年以上前に原作は読んだはずだが、当然内容まで覚えていない。さっと調べると横溝作品にはよくある美女が連続して殺害されるお話である。
こちらもヒロインは前項と同じ久慈あさみである。ヒロインといっても彼女は殺人犯でもあるという役柄。ファッションデザイナーである彼女の専属モデルが殺されていくのだが、最初の犠牲となるモデルを演じているのが塩沢登代路、つまり塩沢ときである。生き残るモデルの一人が安西郷子で、本作が東宝初出演作となる(新東宝から移籍)。安西は後に三橋達也と結婚する。
前々項の「鉄の爪」には"ゴリラ男”が登場するが、こちらには"狼男”が登場する。これは狼つきという奇病で、狼のように変貌して暴れるというものである。その狼男を演じるのが「水戸黄門」でお馴染みの東野英治郎だ。元恋人であった久慈の復縁を迫るが逆に久慈に殺されてしまう。弱い狼男である。彼女のマネージャーは、その事実を知り脅迫し、彼女に殺人を犯させたり、自らも狼男に変装して殺人を犯す。それを演じるのが何と有島一郎。凶悪な殺人犯の有島というのは想像できない。
で、我らが金田一耕助に扮するのは池部良。ダンディでスマートな金田一が容易に想像できる。原作ではお馴染みの等々力警部に「次郎長三国志」の小堀明男で、安西郷子の恋人である新聞記者に千秋実。千秋と安西のカップルというのもちょっと不釣合いな気がする(失礼)。
他にも53年度ミスユニバース第3位で当時話題になった伊東絹子が特別出演扱いで顔を見せている。伊東は当初、女優になる気はありませんと言っていたようだが、結局4本ほどの映画に出演している。
監督にはホラーものの第一人者である中川信夫、脚色として黒澤映画で有名な小国英雄、助監督に後に「ウルトラシリーズ」で活躍する野長瀬三摩地の名がある。
内容はともかく、有島一郎の殺人鬼、東野英治郎の狼男、塩沢ときの美人モデルなど、後のことを考えると意外なキャスティングが面白い作品ではないだろうか。