銀嶺の果て
話が前後するが、東宝ニューフェイスの項で話題にした「銀嶺の果て」(47年)について取り上げてみる。本作は三船敏郎のデビュー作として知られるが、谷口千吉にとっても監督デビュー作なのである。銀行強盗の三人組(志村喬、三船敏郎、小杉義男)が北アルプスに逃げ込むが、小杉は雪崩に巻き込まれ、山小屋にたどり着いた二人も仲間われになり、最終的には三船も命を落とすというような展開である。志村・三船のコンビといえば黒澤映画でお馴染みだが、三船のデビュー作で早くも実現している。本作の監督は谷口だが、脚本は黒澤明である。黒澤は実質的に編集を行い、撮り足しや撮り直しの指示を出したということなので、かなり黒澤色の強い作品かもしれない。ニューフェイスの採用面接で山本嘉次郎に谷口、黒澤が同調して三船の採用が決まったと書いたが、それも当然で彼らは山本の助監督だったのである(「ゴジラ」など怪獣映画の本多猪四郎もその一人)。ちなみに今回共演の小杉も審査員の一人で、彼らに同調したという。あと岡本喜八も助監督として本作に参加している。
他の出演者だが、登山客に河野秋武、山小屋の爺に高堂國典、その孫娘に三船と同期のニューフェイス若山セツ子などが出ている。谷口と若山はここで出会い、49年には結婚するのである。しかし56年には離婚、若山はこれをきっかけに躁鬱病状態になっていく。若山は61年には女優を引退するが、71年には復活し「お祭り銀次捕物帖」などに出演した。しかしやはり奇行が目立ち、再び表舞台から消えていく。そして85年、首吊り自殺をはかり死体で発見される。享年55歳だが、その死体は80歳以上に見えたといわれている。
一方の谷口は先日95歳にして亡くなったが、作品数はそれほど多くない。評価の高い作品はごく初期のものばかりで、75年以降は作品を発表していないようだ。黒澤や本多ほど映画に情熱がなく、三度の結婚が示すように遊ぶほうに一生懸命だったというような話もある。実際のところはわからんけれども。