肉体の野獣
川喜多雄二という俳優は、自分が物心ついた時には既に引退していたので我々世代でも馴染みがないが、50年代には松竹の看板俳優の一人だった人である。あの「君の名は」(53年)でヒロイン岸恵子の夫役(憎まれ役)が有名だ。そんな彼がフリーになった後、新東宝で主演したのが「肉体の野獣」(60年)である。松竹時代からは想像できない「野獣」な医師役を演じている。しかし元々、川喜多は新東宝でデビューしており当初の芸名は川喜多小六というものであった。しかし一年程度で松竹へ移籍し、それ以来の新東宝出演である。共演の女優が三原葉子、三田泰子、三条魔子と見事に三○○子で揃っており、タイトルでも川喜多の横に三人の名が並んでいる。かといってこの三人がトリオで売出されていたというわけでもなく、詳しく調べていないが揃って出ているのはこの作品くらいではないだろうか。三原と三条は割合名が知られていると思うが、三田泰子は活躍期間が短かったこともありあまり知られていないかも。三田佳子とは勿論別人である。そういえば新東宝には三ツ矢歌子もおり、三で始まり子で終わる名前は縁起が良かったのかもしれない。川喜多も松竹時代は高橋貞二、佐田啓二に次ぐスターといわれていたが、男優の方は二で終わる名前が良いとされていた。
しかし自分が川喜多の名を知ったのは「実写版・鉄人28号」(60年)だったりする。彼のキャリアからすれば出演したのが不思議なくらい珍妙な作品である。おそらく唯一出演した子供向け作品がよりによって…。
さて、川喜多はこの映画では外科医の役だったが、60年代後半に引退した後は歯科医に復帰している。俳優になる前は歯科医だったのである。