く
台風が接近した或日
普段あまり立ち入らない
屋根裏部屋が
ふと、気になり
掃除がてら入ってみた
目に飛び込んで来たのは
小さな古びた段ボール箱
開けてみると
tetoがパピー期に着ていた
洋服の数々
少しずつ身体が大きくなり
もう着られないから…と
愛おしく
しまい込んでいた物だった
手に取り、頬に寄せると
私の元に初めて来てくれた
そこにあるはずの無い
〝懐かしい香り〟が
胸いっぱいに、ひろがった
香りというのは
時にどんな記憶の扉よりも
雄弁で淀みなく
あの日の風景を
たなびかせる
庭には紫陽花と撫子が
咲いていた去年六月
火葬車が到着し
棺には
庭に咲いた花を敷き詰め
重厚な扉が閉められた
暮れなずむ藍色の空に
茜色が溶け合い
三人で見守っていた
数時間の中での
ほんの一瞬の出来事でした
ポーン、ポーン、と
二発の
見たことも無い
真っ赤な火の粉が
激しく高く
空へ舞い上り
tetoからの何か強い
メッセージを受けとった
そんな気がしたのです
私が生まれてから
常にペットが
居た生活を送っていたのに
看取った事は一度も無く
全てが
学校に行ってる間に
職場にいる間に
夜眠っている間に
終焉を迎え
逝ってしまった
tetoが私の腕の中を
終の住処(ついのすみか)に
選んでくれた事
それがどれだけ難しい確率で
どんな意味を成すか
この一年もの間
ずっと、考えていました
赦されていた事を知り
満たされていた事を知り
あの小さな身体の何処に
それだけの愛を
宿していたのか
時間が悲しみを癒してくれると言いますが
暦を何枚めくっても
季節の花々が
植栽が
移ろいを見せても
失った漆黒の色は消えません
けれど思い出が
抱えきれぬ程の
溢れんばかりの色彩を
遺してくれました
二つが激しく交ざり合う
日々のなかで
悲しみの中にある愛おしみに
揺れながら
これから生きて行く
大切な心の強さを
学んでいるのかも知れません
ハイシニア犬の介護は
簡単な事ばかりでは無く
何を求めていたのか
分からない事も多く
至らぬ事ばかり
老いていくスピードに
気持ちが追いつかず
疲弊困憊の連続でした
それでも
互いの呼吸を合わせ
寝返りをうたせ
水を運び
介護が必要となるまで
長きにわたり
命の尊厳に向き合えた事は
他から得られぬ
私たち家族の
財産になったと思います
あの放たれた
真っ赤な火の粉の
意味は
契りが果たされたサイン
閃光だった
のかも知れません
tetoへ
こちらは梅雨入り
今日は冷たい雨が
降っているよ
シトシト雨が降り出すと
小さく鼻を鳴らして
寄り添ってきたね
〝雨、嫌だね…〟撫でながら
庭の紫陽花を
一緒に眺めたね
雨粒まとった紫陽花は
ガラス細工のブローチみたいに
艶めいて
しなだれても
負けない姿
見せてくれたね
冷たい雨に打たれても
tetoのぬくもりが
あったから
私の記憶の中の六月は
いつもポカポカ
あたたかい
teto、ありがとう
やすらかに。
6月8日10時15分
合掌











