あの仔の鼻先季節は律儀に巡ってくる あの仔が亡くなった昨年チューリップの 掘り上げ分球に 手がつかず 放っておいた土の中から 朱、桃、黄の杯が突き抜ける 忘れられていたはずの 球根が 生命の熱で 凍てついた季節を溶かし手入れを忘れた庭に 満開の許しを咲かせる 土の下であの仔の魂と呼応するように 人の悲しみを超えた場所で 脈動し続ける私はふっくらと膨らんだ花びらをなぞった18年という時間を一緒に数えてきたその指先で〝よく頑張ったね〟返事の代わりに春風が花の首を揺らし頷いているかのようだったそのチューリップの蕾はあの仔の冷たかった鼻先を彷彿させ右に左にステップを踏み大地を蹴って走る懐かしい足音が今も 聞こえる気がした〝おいで〟と呼べば何処からでも今にも白髪混じりの愛らしい顔がひょっこり現れるようなそんな気がしてあの仔が大好きだった 春の光 けれど最期は 微かな 風さえも その小さくなった身体に 重くのしかかるようで 真っ直ぐ見つめた視線の先は きっと私という世界のすべてだったのでしょう そう 人は大切なものから決して目をそらしては いけないんだ この仔達がそうあったようにteto 見てごらん ほら、また小さな蕾見つけたよ