街を歩くと同い年くらいの女がオシャレに着飾って楽しそうに歩いている。
――あれは数ヶ月前の自分だ。
世の中の全てに許されているようにはしゃいでいる女たち。
エリは女たちをじっと見つめながらすれ違う。中には視線に気付いてエリを見る者もいたが結局はほとんどがエリを無視した。
それは当然の事だ。
エリと女たちに接点はないのだから。
エリは足取りを重く歩き続ける。
どうしてこんな事になったのか、自分で自分が理解できない。
とにかく今は病院へ行く。
それが先決だ。
バッグの中で今日何度目かの律子からの着信で携帯が震えているのが分かる。
自分に電話してくるのはもはや律子からでしかない。
エリはそれをわかっていた。
取り出して、やはりそうだったことを確認する。
この母親はどこまでもいつまでも私を干渉し、支配しようとしているのかもしれない。少し前までは私と一定の距離を保っていたのに。
エリは電話を無視し、またバッグに投げるように入れた。
病院は、気付けばもう目の前だった。
この場所だけ、切り取られたように違う雰囲気を放っているように思えてならなかった。
小さく息をつく。
そして思う。
どうしてこんな事になったのだろう。
何で私なんだ。
腹部に手を当てながらエリは繰り返し思った。気が重い。
それでも行かなければ。
進まなければ終わる事もない。
自分の逐一の選択にどこかミスはなかったかと何度も考えてきた。
あの時と、あの時と、あの時。
ううん、もっと別の時。
思い当たる事は無限にあるようにも感じたし、1つもないようにも思えた。
結局私は怖いのだ。
これから起ころうとする事すべてが不安であり、怖いのだ。
それは自分が体験したことのないものだからだ。
経験すれば、どうってことのない事かもしれない。
だけど分からない。
分からないから怖い。
分かるには怖い思いをする。
ぐるぐると永遠に解けないループのようにエリを苦しめる。
だけど進まなくては。
エリは病院の玄関に向かった。
大きく産婦人科と掲げられている。
エリが入ると同時に中から人が出てきた。
子供だった。4~5歳くらいの男の子だった。
勢いよくエリにぶつかりそうになったのを寸でのところで子供の母親らしき女性が捕まえた。
「こら。走るなって言ってるでしょう。」
女性は妊娠していた。
産婦人科から出てきたのだから当然と言えば当然の光景だった。
大きく丸みを帯び突き出た腹にエリは目をそらした。
「大丈夫ですか?」
女性は暴れまわる子供の腕をがっちりと掴みながらエリに声をかけた。
「ああ、はい」
「ホラ、お姉さんに謝りなさい」
女性は子供にそう促し子供が大きな声で
「ごめんなさい」
と言った。
エリは頷いた。
「本当、ごめんなさいね、この子お兄ちゃんになるもんだから、はしゃいじゃって」
女性は笑ってエリに言った。
「はあ・・・そうですか」
「どうぞ」
女性はそのまま扉を開けてエリを中に入れた。
「何ヶ月ですか?」
女性がすれ違いざまにエリに問いかけた。
子供がまた何かわめいている。うるさい。心底思う。
エリは少しだけ笑って答えた。
「7ヶ月なんです」
そうですか、女性も笑って去っていった。
どうしてこうなってしまったんだろう。
エリはさっきの女性と同じように大きくなった腹部をまたさすりながら受付に向かった。