1人でやるにはどうすればいいのか。
どちらにせよ今月一杯は動けない。
仕事は月末から行くつもりだったけど最初のうちは仕事が終わったら早く帰るべきだろう。
もうすっかり元気になったと信じ込ませるには来月くらいから始めるべきだ。
今月の支払いをどうしたらいいのか。
悩みはそこだった。
計算すると返済も含めて、なんだかんだ7万くらいは必要だった。
いや、それもきちんとした計算に基づいて算段したわけではない。実際はもっと多いかもしれない、分からない。考えたくないのだ。逃げ出したい。
一瞬だけ姉に本当の事を言おうか迷ったがそれは迷いのまま、すぐに消え去った。
言えるわけないのだ。
言えるわけない。
「どうしよう・・・」
今日何度目かの「どうしよう」がまた口から無意識に飛び出した。
姉に言えないのだ、母にはもっと言えない。
第一、入院で散々迷惑をかけた、金銭的にも体力的にも、精神的にも、だ。これ以上、心配事を増やしたら今度こそ母はどうにかなってしまうかもしれない。自分が怒られたくないのと同じくらい強い気持ちで母を心配した。
どうしよう、言いかけてやめた。
気付いたのだ。
「また借りればいいんだ」
名案だ。
そう思った。
だって1社完済したのだ、その情報はあの世界では知れ渡っている。
どうにかなる。
7万だもの。
早速携帯で大手検索サイトを呼び出す。
「消費者金融」
入力。決定。たちまち色々なホームページが映し出された。
「ブラックにも融資」
「100万即金で貸します」
怪しげな所は無視した。
聞きなれた大手の殆どは既に借りている。
聞いた事のない会社名をいくつかクリックしてメモを取り一旦そのサイトを閉じて某巨大掲示板の借金関連のスレッドで質問したりする。
借金をした時は大体ここでいつも情報を集めた。
私がこれから借りようと思っている会社はどうやらやばいところではないらしかった。
だけど今まで借りたどの会社よりも規模は小さかった。
フリーダイヤルはなく、返済方法も大手によくある専用のATMは全くなく都内にある2店舗の窓口どちらかで直接支払うか振込みのいずれかだった。
それでも背に腹は変えられない。
私は思い切って電話した。
こういう時、いつも私の心臓は爆発するのではないかと高鳴る。
初めて借金をする時もその世界が未知すぎて緊張は静かにピークに達していた。
コール音がちょうど4回鳴った後、中年の男の声がした。
会社名を告げる口ぶりも何となく威圧感を覚えた。
だけど私は思い切って言った。
「初めて電話します・・・あの、そちらで借り入れを希望しているんですが」
この時、電話の向こう側にいる人間の声がいつも、より優しく感じる。私はいつもこの瞬間だけ自分がまるで高級ブランドで豪遊しているかのごと上客だと勘違いする。
実際、上客には変わりないが、それでも特別な客のような気を起こす。
今回の男も新規の客だと気付くと少しだけ声を和らげた。
私はホッとして言われた通りフルネームや住所、会社名などを告げた。
これは今まで借りた会社の数だけ答えてきたものだから慣れたものだった。
私の「情報」を調べると言って電話は切れた。
しかも私から10分後にかけ直せとまで言われた。
昔、同じように聞いた事のない会社に電話してクレジットカ-ドで買い物して、それを現金化すると言われた事がある。
怖くなってやめたいと言うと相談料などが発生するからいくらか払ってもらうと言われた。
それを断るとどこまでも追いかけると言われた。
あの時のあの会社がなんて名だったかなんて忘れたけれどこの会社は果たして大丈夫だろうか。
私は部屋の壁掛けの時計をじっと見つめた。
この時間が嫌だ。
10分が早く経つようにとひたすら祈る。