待ち合わせは駅からすぐのパチンコ屋。
トイレを出る時、もう一度念入りに鏡に映る自分を見つめる。
唇にはたっぷりとグロスを塗った。
何度も何度もマスカラしたまつ毛はくるんと上を向いている。
自分の大きな瞳をもっと強調するためにアイラインも強く引いた。
髪はおろすとふんわりと他方に散らばったけどとかしてないような汚い感じとは違う。
自分のくせっ毛に感謝したくなる。
Gジャンの下にのぞかせているのは黒いドットのワンピース。胸元は大きくVに割れていて普通ならインナーにキャミでも着るのだけど今は下着だけ。大きな胸をやりすぎなくらい強調した。
恥ずかしいし、下品だけど、これは2人になった時、もっていきやすい雰囲気を作る為に重要だからしかたない。
パチンコ屋に近付くと「ケン」に電話した。
3回コール音が鳴って
「はい」
この瞬間は2番目にドキドキする。
「あ、初めまして、あの、メールの・・・」
思い切りかわいこぶった声で話すとすぐに通じる。
「あ、はい、初めまして。今、オレ、新宿には着いたんですけど・・・」
若い男の声。慣れていないから迷っているのだと言う。
あたしは大体の位置を教えて着いたら電話するよう可愛く言った。
それからパチンコ屋と道路をはさんで向かいのクレープ屋で「ケン」を待った。
あたしはいつも約束どおり待ち合わせ場所に最初から行く事はない。
ここでじっと待つ。
メールなり電話なりで到着の連絡が来ると動く事にしている。
「ケン」から電話が来た。少し待って出る。
「多分、言ってるところに着いたよ!どこ?」
あたしはまだ着いてないけどもうすぐ着くと言う。遠目から見てメールで教えてもらった「スーツ」姿の男はたくさんいるように見えた。電話をしている男を集中して探す。なんとなくあの人かなあ、と思う男がいた。でも確信が持てない。
「あ、パチンコ屋の横に自動販売機とか確かあったと思うんでそこの前で待っててもらってもいいですか?」
これも必ず言う。
移動している姿を見てちゃんと男が「1人」で来ていると確認するためだった。
あたしを勘ぐったりする気配は感じなかった。「ケン」は素直に了承した。歩いてる感じが電話でもうかがえた。
いた。
多分あれだ、あの男だ。
さっきから目で追っていたスーツの男が自動販売機前に到着するのが見えた。
電話越しで「ケン」が着いたよ、と言った。
この距離だとやっぱり顔はよく見えない。
あたしは少しだけ足早に「ケン」の元へ歩き出した。
「あたしももう着きます」
言いながらもう「ケン」の側だった。
「あ、ほんと?」
呑気な声が携帯を当てた右耳からもそうじゃない左耳からも聞けた。
「こんばんは」
「ケン」の前に立って目を合わせる。「ケン」は一瞬よくわからない顔をしてあたしを見つめたがすぐに状況を把握して
「あ、こんばん、は」
と少しどもって答えた。
「遅れてごめんなさい。行きましょうか」
ここで、あまり考える隙を与えないようにするのもあたしは巧い方だと思う。
あたしは写メを送らないわけだし、会ってみてタイプじゃなければお金を出すのは男だから断る権利もあるわけだ。
でも、そうなってしまうとあたしの予定が狂う。
お金が手に入らないのが1番迷惑。困る。ムカつく。
その次がこの場所に来るまでの時間の無駄。会わなければとっくに家に着いてる時間だもの。このために化粧して着替えもした。何より携帯でのメールのやり取りの面倒くささ。
そういうもの全てが無駄になるのに腹が立つ。
もちろん、タイプじゃないと断られる事がないわけではなかった。
自分の容姿が万人受けするとは思ってないしね。
メールの段階で「写メ無理なら会って断るかも」という内容が来た時はその場で断ったり返事をするのをやめた。
そんな賭けのために時間を費やすのが嫌だった。
実際会って断られたのは100人以上と会って2回だけ。
「ケン」は歩いてる間、よく喋った。
僕ね、○○で働いてるんです、と、いきなり誰でも知ってる携帯会社の名前を言い出した。今回はその研修で東京本社に来たんです。
たまにこうして自分の職場だとかを躊躇いもなく言ってのける男だいるけどそれに乗ってあたしが自分の会社名を言う事はない。もちろん言ったところで分かるはずもないほどの小さな会社だけど。
それにこうして出会った男との会話は全て話半分で聞くようにしてる。
普段の出逢いだって嘘が見え隠れするような今の世の中で、昨日今日会った、しかも出会い系サイトで会った男に自分の全てを話す義理も、逆に聞いてあげる義務もあたしは持ち合わせていない。
「へえ、すごいですね」
適当に答えると「ケン」は本当だってば、とか信じてないでしょ、とかを言っていた。
ううん、信じてる。
だけど信じてない。
どうとでも望むように答えてあげる事は出来る。
だけど今日はあたしはそうしない。
なだかさっきから小さく感じる居心地の悪さを、どうにかしてなくしたい気持ちでいっぱいだった。