みくが現れたのは2時半だった。
もしかしたらドタキャンされるかもしれないと少し心配はしたがみくはちゃんと12時過ぎにメールをくれた。それでエリも安心して待っていられた。
待ち合わせ場所は歌舞伎町にある24時間営業のペットショップだ。
みくは犬が好きでこの店を暇があれば寄って見ていた。
エリはこの店に漂う匂いがどうしても好きになれず、犬自体も特に好きではなかったので店にはみく以外と入った事はない。
今回も店の前で待っていた。
少ししてすぐにホストが寄ってきた。
ニヤニヤと薄ら気味の悪い笑顔を浮かべた男は全身黒のスーツで靴だけが異様に汚く目立っていた。
髪のセットに物凄く時間をかけているだろうとエリは思った。思いながら無視を決め込んだ。
「ねえねえ、誰か待ってるの?それまでうちの店に来ない?」
男はエリの横をぴったりとくっついて離れない。
「君、かわいいねえ。名前なんていうの?誰待ってるの?」
ホストの客引きとナンパはとてもよく似ていると思う。
エリはホストクラブに行った事はないけれど女がハマってしまうのも分からなくもない。
それに自分も同じような事をしていたし駆け引き等もきっとあるのもわかっている。
自分が男と酒を飲み、会話を交わす為に金を遣う事は、きっと一生ないだろう。
だけどそうしないと相手にされない女もいるのだ。つくづくかわいそうだと思う。
「ねえってば」
男が呼んだのとみくが現れたのが同時だった。
「エリちゃん!」
エリの前に現れたみくは少しだけ痩せていたように見えた。ジャケットは前が開いてて、その下には相変わらず豊満な胸を強調するようなトップスを着ている。そしてデニムにブーツを合わせている。
みくの化粧は相変わらず濃いなあ、とエリはまじまじと見た。
みくが目を伏せている時のアイラインの完璧さとまつ毛の長さを見るのがエリは密かに好きだった事を思い出した。
時間って少しずつ何かを忘れさせて、少しずつ何かを思い出させるなあ。
エリは久々に逢ったみくをじっと見つめながら思った。
みくは笑いながらエリに近付き、それから横にいたホストをチラリと見た。
「何、知り合い?」
みくが聞くのでエリは
「ううん、知らない」
そう言い、みくと歩き出した。
ホストが小さく舌打ちしたのを聞き逃さなかったがそれに対して何か言うつもりはもともと持ち合わせてない。
「どこ行く?飲み屋でええよね」
みくは昔と少しも変わらない大阪弁ではつらつと聞いた。
エリは頷き、2人は大衆居酒屋に向かった。
「みくちゃん、この辺のお店で働いてるの?」
エリが聞くとみくは「うん」と答えた。
「この辺、歩いてたら店の人に逢うかな~って最初はドキドキしてたんやけどね。案外逢わんもんやね」
ガハハ、と下品に笑う。
「それにあたしにはこの街以外ないわ」
歌舞伎町は何て汚いんだろう。
こんな時間になっても眠らせてくれない街。
いろんな業種や国の人間がたくさん集っている街。
それでもここしかない、そう言い切るみくの潔さにエリは何も言えなかった。
「エリちゃんは?まだ頑張ってるん」
みくが聞くとエリは
「うん、最近サボりがちかな」
「え~どうしてなん?あ、学校忙しいとか」
「ううん。そんなんじゃないんだけどね」
みくが何か言おうとして
「あ、ここにしようや」
前に1度来た事のある居酒屋を見つけた。
「今日は久々やもんね、たくさん飲もうや」
みくが笑って、エリもつられて力なく笑った。