あたしとリュウの話はもうすぐ終わる。

何でかって言うともう夏が終わりに近付いているからだ。

だからもうちょっと付き合って欲しい。


あたしはその夏のほとんどをリュウに捧げたと言っても過言ではない。

もちろん仕事もしていたし、友達とも逢ったし他にも色々やる事、やらなきゃいけない事はたくさんあったけど、あたしの気持ちはいつもまっすぐにリュウに向かって伸びていた。

真昼の月を見つければリュウにも見てほしいと思ったし沈む夕日が綺麗ならリュウに教えてあげたかった。

今なら分かるけど、あたしの悪いところはそれを伝えなかったところだった。

思うだけでリュウに何も言わない、言えなかった。

それなら真昼の月も鮮やかな夕日もないのと同じだった。

あたしは勘違いしていたのだ。

リュウに言わなくても分かってもらえるんだと。

リュウもあたしが必要なんだって。

だけどそれはまったくの勘違いだ。

あたしはリュウを理想化していたのかもしれない。

あたしの事は大切にしてくれてるんだって。大切にして欲しいと思う事とはまったく別物なのにね。



リュウは仕事でイライラし始めていた。

その頃、闇金被害による相談や自殺とかがやたら増えていて警察が一気に動き始めていた。

もちろん、今だってなくなってないでしょ。

人の心の弱い部分につけこむような酷い世界は何も闇金だけじゃなくて、この世にはたくさんある。

そういうのってずっとなくならないような気がする。

それで世界はバランスを取っている気さえする。

たとえば風俗をやっている女の子。

そんな仕事最低って言う人や言わなくても軽蔑する人、たくさんいると思うんだけどさ。

考えてもみてよ。

もしもその仕事が世界から消えてなくなったら世の中の性犯罪はどれだけ増加すると思う?

お金を払えば女とHな事が出来るから犯罪に手を染めない人、っていうか染めないで済む人ってたくさんいると思うんだ。

皆が皆、したい時にセックスやそれに近い事が出来る相手がいるとは限らないでしょ。

そういう必要悪っていうか・・・悪ではないけど、そういうのって絶対なくならないと思うんだよね。

そう思わない?

闇金は悪いことだよ。

それと風俗はまったく比べちゃいけないけど・・・。

でも闇金も絶対なくならないと思う。

なんでかって言ったら、それに頼らないと生きてけない人も確かにいるから。そこに行ったら最後だってもしかしたら頭では分かってるかもしれないんだけどそれでも一瞬、楽になれるんだったら・・・ってそこを求めてしまう人がいるうちは、なくならない気がするんだよね、悲しいけど事実だと思う。


まあ、とにかくリュウはイライラしててね。

仲間内の同業者も捕まったり、どっかに逃げたりしててさ。

客も知恵付け始めたとか言ってたっけな。

リュウからしたら自分の都合で借りた客なわけじゃん。

借りる時はヘコヘコしてたくせに、って思うんだろうね。


あたしと逢ってもセックスだけ、それも暴力みたいに激しいセックス。

終わったら帰れって、そんなのはさすがに言うわけじゃないんだけど、そうした方がいいんだろうなって感じ。

電話しても3回に1回は出ない。

一緒にいる時も誰かと電話で色々話したりする事が多くてさ。

なんか・・・

あたしはリュウと一緒にいるけどリュウはあたしといないみたいだった。

それがあたしには辛すぎた。

そんな時に文句を言えるような間柄じゃないし、そんな気軽さも持ち合わせていなかった。

結局、決定的に足りないものがあったみたい。

愛情だよね。

あたしはリュウに想われていないのがよく分かった。

他の男の話を嘘だけど、匂わせたとしてもヤキモチもやいてくれないだろう。

なんだろう、何がいけなかったんだろう。

ぐるぐる考えても結論は出なかった。



さて、もうすぐ夏が終わる、そんなある夜だった。

いつものようにあたしはリュウとセックスした。リュウの部屋でね。

セックスしてる時だけは、あたしはリュウをとっても身近に感じる事が出来た。だからいつも終わらないでって思う。

だけどそれは無理でしょ?

リュウが出して、それを拭いて、終わった。

リュウがまたあのパンツをはいてるのが視界の隅に入った。やっぱり裾が汚いなあって思った。あたしも下着をつけて服を着ようと起き上がった。

「あ、やべ。」

リュウが舌打ちしながら呟いたのが聞こえた。

「これ、やっぱ汚ねえな」

はきかかったパンツをリュウはあっという間に脱ぎ捨てた。それから近くにあった東京都の指定ゴミ袋にポンと捨てた。

それは一瞬の出来事だった。

半透明のゴミ袋の中身は分別してなくて捨てたあのパンツとペットボトルが隣り合わせで透けて見えた。

あたしは、それをじっと見た。

もしかしたらリュウが拾い上げるんじゃないかって、少しだけリュウを見たけどリュウは気にした様子もなく他のパンツを探して、やがて黒いパンツをはいた。


「あたし、帰る」

リュウは「わかった」とだけ言った。

あたしは速攻で着替えて慣れた足取りで玄関に無言で向かった。

リュウは何も言わなかったし、あたしも何も言わなかった。

この夜したセックスが、あたしとリュウがした最後のセックスだった。