「何でかわいそう?」
「え?」
タバコに火をつけながらきょとんとした顔でみくはエリを見る。
「だから。なんでかわいそうなの?」
エリは少し強い口調でもう一度聞いた。
「え、何がやっけ」
みくは不思議そうに聞き返した。
エリはそんなみくに初めて少し苛立ちを覚えながら
「今、みくちゃん、あたしの友達のこと、かわいそうって言ったじゃない」
そう言う。
みくはタバコを美味しそうに吸いながら
「ああ、言ったね。かわいそうやん」
改めて言う。
かわいそう、それは眞鍋の父にも言われた言葉だ。
エリは自分が「かわいそう」であってはならないと思っている。
この場合に限らず、常に。
いつも自信に満ち溢れ、周りから羨ましがられたり憧れの対象で在りたい。
間違っても「かわいそう」と同情されてはならない。そう思っている。
「だからなんで」
エリは再度聞く。
みくはエリから目を離しとっくに携帯を見入っている。見ながら答えた。
「なんで、って。要するに自分が1番大事なんやろ?」
そうだ、その通りだ。だけどそれの何が悪いのだ。
エリの不服そうな表情をみくがチラッと見た。
「自分が大切って、それって凄く大切じゃない?」
エリは静かな声で言った。
この会話は少なくともこの店には似つかわしくないように思えた。
「そうやね」
みくは、あっさり認めた。
「ある一定までやったら自分が1番大切、大事っていう考え方もあるかもしれんね。でもさ、恋人ができてクサイ言い方やけどまあ、俗に言う愛ってやつを知ったらその人の方が大切になる。親は子供が1番大切ってよく言うやん。あんな感じ。自分が1番大切なんやない。自分を愛してくれる、自分が愛してる人間が自分より愛しく思える、大切になる、そんなんに変わるんと違う?」
エリは何も言わず聞いていた。
それはそうかもしれない。でも偽善だとも思った。
みくの言う事が正しかったら世の中、こんなに殺人事件など起きないはずなのだ。
「まあ、違うかもしれんよ。所詮は自分が大切ってなるかもわからんよ」
みくは続けた。
「だけどそうでありたい、そうであって欲しいって思うやん?」
分からない。
そんなの全然わからないよ、みくちゃん。
喉まで出かかって、飲み込んだ。
「最初は予定外だった妊娠でも、産むって決まって準備してったら、いつの間にか愛しくてたまらん存在になってくって聞くよ。」
みくは今度はポテトフライに箸をつけた。
「もし、そんなんが絶対ないって言い切れるんやったら、自分以外は自分ほど、あるいは自分よりは重要と思えないって言うんやったら、それはかわいそうな事以外のなんでもないと思うねんけどね」
エリは黙ったまま、みくを見つめた。
ごめんね、みくちゃん。
それでもあたしはこの腹にいる存在が疎ましくて仕方がない。
心底から嫌で仕方ないんだ。
早くどうにかしたいって思ってる。
そして本当に近々どうにかするんだ。
それを聞いたらみくちゃん、あんたはどう思うかな。
心配してくれるかな、それともまたかわいそうって言う?
どっちにしろ私は誰にも何も言わないで自分でどうにかするよ。
だって私は私が1番大切。世界で1番大事なんだもん。
かわいそうなわけがない、かわいそうなんかじゃない。
「エリちゃん、何飲むよ」
みくはメニューを見ながらもう話は終わったと思っている。
「ああ、そうだね」
エリもそれ以上は言わないし聞かない事にした。
真面目な話は私たちには似合わない。
飲んで、客の悪口でも言うのが私たちにはしっくりくるに決まってる。