起きると皆出かけていた。

私は9時半になるのをひっそりと待って秒針をじっと見つめていた。

時間になるとすぐにT社に電話する。

携帯からコール音が鳴ってやがて女性が明るい声で出た。この会社は殆どの大手の消費者金融と違ってまだフリーダイヤルではない。

ケチな会社だ。


私は名乗らず

「黒岩って男性を出して下さい」

思ったより低い声だった。

電話の向こうの女性は私の名前をしつこく聞いた。

隠してもどうせ名乗らなくてはならないので私は自分の名前を早口で答え早く黒岩に繋げるよう促した。

もしかしたら居留守を使われるかとも覚悟していたがあっさり黒岩は出た。

拍子抜けするほど明るい声で

「いやあ、もう退院なさったんですか」

と聞いてきた。それに対しての返事はせず

「私、退院したらお支払いすると言いましたよね」

はい?黒岩が疑問系で答えたのに腹が立った。

「なんで手紙なんて送ったんですか」

「手紙?」

しらばっくれる黒岩に殺意さえ覚えた。

「そうですよ!返済が遅れてるとかいう手紙よこしたでしょ!姉に見られたんですよ!入院してるって言ったでしょ!」

しばらく沈黙。

「ああ・・・申し訳ないです。こちらの手違いかもしれません」

「姉が私の振りして電話したでしょ。おかしいと思わなかったんですか?」

怒りで顔が熱くなっているのが分かる。

「でもそれはね、こちらとしてはあなたご自身だと言われれば信じるしかないんですよ」

黒岩はこのような場に慣れているのだろう。まったく冷静だった。

自分が恥ずかしくなるくらいに。

私は一瞬だけ息をついて

「もういいです。全額返済します。方法教えてください」

これもまた早口だった。聞こえにくかったのか黒岩に2回聞き返された。

やがて意図が伝わると黒岩は返済方法を告げた。

姉から振込先・完済の明細をよこすという2点を繰り返し告げメモを取り、電話を切った。

やりきれない思いがこみあげた。

この1社が終わったところでなんになる。

私にはまだ途方もないほどの借金があるのだ。

でも姉には言えない。

今後の事を考えると気がおかしくなる。