あれは3月がもうすぐ終わる月曜日の夜だった。

つい最近「明けましておめでとう」なんて言ってた気がするのに時間が経つのはなんて早いんだろう。

新社会人。

自分自身はそんなのとうの昔のような気がするけれど4月になればそんな人たちが群れをなしてそこら中、歩いてるんだろう。

新社会人は見ればすぐに分かる。

彼らは真新しいスーツに身を包み、自分と自分の将来に夢をはせている。

瞳がキラキラしている。

何をしてもどこにいても少し楽しそうで、これから窮屈で退屈な生活を過ごしてゆく事に全く気づいていない。早起きして満員電車に揺られる苦労さえもどこか楽しそうで、どこか誇らしげなのだ。


あたしはそんな彼らが疎ましくて仕方なかった。

学校を卒業してピッタリ4月から仕事に就いたわけじゃないけれどあたしだって彼らくらいの時、これからの自分にドキドキした。

どんな仕事をしてくんだろう、活躍するかな、どんな出逢いがあるんだろう。

答はこれだ。

仕事は単調。誰でも出来る。たいした出逢いもないまま、仕事が終わって気が向けば、とっくに流行らなくなった援助交際・・・売春をしている。



今日の相手は24歳。待ち合わせ場所に向かう道を歩きながらもひっきりなしに入ってくるメールの返事をしながら、あたしは自然に偽りの自分で気持ちを固めていく。


始めたのはいつ頃だったろう。

始めるまではどうしようもなく怖かったけれど今はもうすっかり慣れた。

たくさんの男と出会ったけれど運がいいことに新聞やテレビを賑わすような大きな事件には巻き込まれずにいる。

昼間の仕事の収入は16万と少し。勤めている数年で少しずつ昇給した。だけどおそらくこれ以上、劇的に昇給する事は考えられないだろう。

それでもこの月収で生きてくことは当然できる。

あたしは実家暮らしだったし少ないけれど一応ボーナスも出る。

それでもいつも「これ以上」を求めた。

会社に内緒でバイトもしたけれど、自分の自由な時間に好きなようにできる今のこのスタイルが1番落ち着くし気に入っている。

そうなるともう決められた時間にバイトに行く気にはなれなかった。


身体がきつくない日、予定のない日、そしてお金のない日。

理由は様々だけど大体この3つのうち2つ揃うと、朝起きてベッドから起き上がる時、あたしは「がんばろ」と小さく自分に言い聞かせて、その日、見知らぬ男と寝る決意を静かに固める。

そしてそう決めた日は仕事しながらもそのことを考えている。

前は昼食後、営業が出払うと出会い系サイトの掲示板に援助交際目的の投稿をしていた。

必ず返事がきたが、いまは面倒になって帰る直前の5時半頃に投稿する。

内容はコピーしたものを常に貼り付けてる。

「これから新宿で会える人募集」

題名は殆どコレ。

仕事が終わってから新宿に着いて投稿するとその分、家に帰るのが遅くなる。

理想は7時半前に会ってサクッと終わらせて9時前には新宿を出ること。

もちろんそう毎回うまくはいかないけど。


1番はお金。だけど刺激が欲しいのも出逢いが欲しいのもどこかで付属していつも思う気持ちに入る。

だけどこの目的以外であたしが出会い系を利用した事はただの1度もない。

出会い系サイトはあくまでもお金目的だ。

その中でいい思いがたまにできればいいんだと思う。多くを求めすぎるとたちまち悪い方向へ行く気がした。

ただ淋しいから、誰かと逢いたい。

そんな理由でサイトで誰かを探し、食事やそれ以上の事をその相手とするのに躊躇いがあったのかもしれない。


初めて投稿してからちゃんと数えていたのはほんの数人。そこからはもう忘れたけれど会った人数は100を越えていたし金額はもちろんそれ以上だった。

「トイレ、空いてるかな」

待ち合わせ場所から近い高島屋のトイレは座れるからゆっくり化粧が出来る。

あたしの御用達だ。

夕方は混んでるから座れない時もある。

あたしの足は自然に速まった。