金を手にしたエリがやる事・・・やるべき事は病院探しだった。
中絶手術をするための病院を探さなくてはならない。
部屋のパソコンで検索するとたくさんの病院が出てきた。
どこにしよう、どうしようか。
エリは迷い出すとダメ、と言い聞かせ、結局最初に出てきた病院に早速明日、予約を入れた。
場所は渋谷だ。
「ああ早く終わらせたい」
これが本音だった。
自分の腹の中で懸命に生きようとしている、そうは思えない。
邪魔だった。
同意書は筆跡を変えて自分で書くつもりだった。
未成年だから保護者の捺印がいるという、それもなんとかなりそうだ。
そう、産むという選択さえしなければ今回の事はどうにでもなるのだ。
「あ、そうだ」
エリは横に置いた携帯で部長に電話をかけた。
部長はすぐに出た。
「エリか?おまえ・・・」
言葉を遮ってエリは言った。
「部長、お休みしちゃってすみませんでした。」
わざと明るい声で言う。
部長は拍子抜けしたのか声のトーンが少し変わる。
「おまえどうしたんだ」
部長も生理休暇だとは思うまい。
「いや、実は・・・親にお店のことバレちゃって外出禁止だったんです。今後も当分は難しいと思います」
部長は少し押し黙り
「店、辞めるのか」
そう聞いた。
「・・・このままだといつ行けるかもわからないんです」
結局、部長は、はっきりと辞める事を許可はしなかった。
エリもきっぱりとした意志で臨むつもりだったのに実際話すと言い出しにくかった。
もちろんもう行く気にはならなかったが
「また連絡しろ」
と言われ話は終わった。
だけどエリは店には行かないし、この状況が続けば部長も諦める気がした。「水商売」というのは水の流れが不安定だからそれに例えているとか色々な意味を持つようだが結局のところは水のようにその夜を流れる男女を指すような気がする。
1人が消えてもまた別の1人が流れ着く。
エリの代わりはいくらでもいるのだ。
エリはそれになんとなくは気付いていた。
自分じゃなきゃダメなもの、そういうものを見つけ出す事のできた人間は、それが出来ない人間よりずっと少ない。
エリの美しさはエリだけのものであるけれど、それだけで生きていけるとはエリも、もう思わない。
「ともかく明日」
みくや眞鍋の父が言った「かわいそう」というエリに向けられたあの忌々しい言葉を忘れ去るかのようにエリは言って瞳を閉じた。