世界各国のインターナショナルスクールは、IBプログラムを採用している学校が多いためか、

IB受験に対して、AP受験に関する情報が少ないという印象を受けます。

 

一昔前までは、ヨーロッパの大学を受験する場合はIB、アメリカの大学はAP、という認識でしたが、

最近では、ヨーロッパでもAP受験が可能だったり、アメリカでもIB受験が可能になってきています。

日本の大学も、以前はIB受験が多かったですが、いまではAPでも受験できる大学がほとんどではないでしょうか。

 

そうは言っても、ヨーロッパはまだIB、そしてアメリカはAPが主流のように感じます。

 

二つのプログラムに優劣はありませんが、生徒さんを見ていると、向き・不向きはあるように思います。

では、この二つの受験方法、何が違うのでしょう?

 

 

IBディプロマ (IBDP)

IBDPは、下記の通り、選択科目に加え、CAS (Creativiy Activity Service), EE (Extended Essay), TOK (Theory of Knowledge)も課されますが、ここではAPとの対比を試みるため、あえてIBディプロマの中でも、科目選択のみに焦点を当てて見ていきます。

 

IB(国際バカロレア)とは?しくみ、科目選択、大学受験について解説します!|海外子女向けオンライン家庭教師のEDUBAL

 

 

内容が全く異なるプログラムなので、単純比較はできませんが、IBのハイヤーレベル科目が、これから紹介するAPに匹敵すると考えると分かりやすいかもしれません。

 

まずはSAT/ACT

一般的に、AP試験以外にも、受験生は、まず高校卒業までにSAT(エス・エイ・ティー)という別の試験を受けます。

APは、大学受験に必須というわけではありませんが、逆にSATは、今のところ全員が受験します。(※米国大学受験におけるSATの位置づけに関しては、下記を参照ください)

過去には、SATもしくはACTのどちらかを受験することができ、受験生には選択肢がありました。

SATがリーディングや文法、そして数学がメインなのに対して、ACTには、サイエンスのセクションがあるのが大きな違いでした。

ただ、このコロナ禍の中、ここシンガポールでは、ACTの受験が不可となり、2022年3月現在も、SATのみの受験となっています。

 

SATは、いわば米国版センター試験のようなものですが、大きく異なるのは、SATは何回も受験可能という点です。

国によって受験日が異なるようですが、シンガポールでは、現在、3月・5月・8月・10月・12月に受験が可能となっています。

 

AP科目

AP (Advanced Placement) とは、高校生が高校在学中に履修できる大学レベルの科目です。

SATと同様、College Board により運営されており、通常、1年の授業を受講し、5月にSAT試験を受験する仕組みになっています。一応、授業内容は、AP試験に向けてのものとなっていますが、高校での単位に必ずしもAP受験が必須なわけではないため、高校のAPクラスを受講しつつも、5月のAP試験を受験しない生徒も毎年、一定数います。

 

Wikipediaで紹介されているAP試験の種類です。

 

 

先述しましたが、IBのハイヤーレベル科目が、APに値すると考えた場合、一番の違いは、IBはハイヤーレベル科目を最低3つ取得することが課されているのに対して、APでは、どの科目をいくつ受験するのか、という制限がないところです。得意な科目を好きなだけ受験できるという意味では、組み合わせは自由です。

ただ、College Board が制限を設けることはないのですが、最近では、高校側がAP科目の履修制限を設ける傾向にあり、これはアメリカ内外で見られるため、今はまさにその移行期と言える時期なのでしょう。

 

最近の米国大学受験傾向

SATについて述べてきましたが、実は、最近の傾向としては、SATはあまり重視しないという大学が増えているのが現状です。

SATのスコアはオプションとする大学(Test-optional colleges)がある一方で、

中には、出願時にSATスコアを記入する欄はなく、一方的にスコアを添付したところで、それを合否基準に考慮することはない、と明言している大学(Test-blind colleges)も最近は見受けられるようになってきました。

数年前から、そうした流れは実際にありましたが、コロナでそれが一気に加速した感があります。

APと同様、受験生同士の経済的・地理的な格差を抑える狙いがあるようです。

 

複雑ですが、大学は、高校の履修科目としてのAPの成績を見て、正式なAP試験のスコアは、合否判定に利用しないというのが最近のスタンスのようです。

ただ一方で、アメリカの大学の財政事情から、APで一定のスコアを取得している受験生を積極的に受け入れるという大学側の事情もあると一部では、言われています。

 

では、SATを見ないで、何を基準に、大学は合否判定をするのでしょう?

それは、エッセイとGPAということになります。

出願時に提出するエッセイは、課題テーマに沿った形で、論理的にエッセイを展開し、いかに自分をアピールしていけるかが問われます。

 

一方、GPA(Grade Point Average)とは、高校での成績です。

先述のAPが、実は、このGPAにも大きく関係してきます。APを履修した場合、GPAの満点が上がるというカラクリになっているのですが、複雑なことに、AP科目でAを取得しないと、それはレギュラー科目のA+に値しない、という裏事情もあり、何が功を奏するかは、総合的な見極めが大事になってきます。APクラスの難易度、APクラスを受講する負担、APクラスの試験の成績、実際のAP試験のスコア、そしてそれがどの程度、自身のGPAに響くか等、様々な要因を考慮した上で、判断していく必要があります。

 

他方で、APのスコアが、大学入学後、実際の単位として認定されることも多々あるのですが、それは、大学や学部により大きく異なるのも事実で、評価は一定ではありません。それでも、単位として認めない大学でも、レベルが上の科目の履修は認めるなど、対応は多岐にわたります。

 

 

これからSATを受験する高校生へ

一般的にSATは、①Reading ②Writing and Language ③Math(電卓なし) ④Math(電卓あり)の4セクションからなります。

数学のテストは、電卓あり・なし共に、満点が取れる日本人は少なくありません。

目標スコアに少しでも近づけたいと思ったら、まずは数学のスコアを伸ばすところから始めてみるのは、日本人にとっては効果的のようです。

次に、Writing and Languageのセクションも、英文法にしっかり取り組んできていれば、それほど難しい内容ではありません。市販の問題集でたくさんの問題を解き、満点を狙うくらいの気持ちで取り組んでみましょう。

Readingテストは、難易度が最も高く、ここで高得点を目指すには、語彙力の強化が不可欠です。このセクションは、問題をたくさん解くよりも、語彙力を上げることがスコアアップにつながります。

 

統計学的に見た場合、SATは、4回目の受験以降は、スコアが横ばいになる傾向があるようなので、4回目の受験までに目標とするスコアに少しでも達していると良いですね。

何回も受験機会はあるにしても、遅くともグレード11(高2)の1学期中までに、1回目の受験を済ませておくのが個人的には、おすすめです。

 

また、5月受験は、受験生にとって有利という情報も、巷にはあるようです。

SATのスコアは、試験内容や難易度、受験者数や正答率など、素点(raw score) ではなく、scaled scoreで最終的に調整されます(Equating process)。

そのため、5月は、年度末で期末試験が集中する時期でもあるので、例年、受験者が比較的少なく、あまり勉強していなくても、他の受験月よりも高スコアが見込めるという情報は、高校のカレッジ・カウンセラーも一応、否定はしていませんでしたが、真意は分かりません。

どちらにしても噂にはあまり左右されすぎず、でも必要な情報はたくさん入手しておくことは大事です。

高3になってからは、エッセイなどの出願の準備に時間が割かれることを見越して、高2の1学期から連続で受験してみて、スコアの推移を見ながら対策していくと良いでしょう。

 

過去には、大学によって、SATのSubject Testやエッセイ付きのSATが受験の条件という学校もありました。

ただ、今のコロナ禍、一般のSAT以外の試験は受験が難しい中、そうした条件は緩和されているのが現状です。

シンガポール国内でも、今現在、Subject Testやエッセイ付きのSATの受験はできない状況にあります。

 

最後に、SATが大学受験に必須でなくなってきたということは、SATの勉強は無意味なのでしょうか?

受験に必要なくても、英語力を上げるという観点から見ると、SATの勉強は続ける価値があると思っています。

例えば、Writing の試験で満点を取ることができる受験生は、それだけのライティング力がある証で、相関性があります。

逆に、ライティング試験で不正解となった問題を見れば、その人の文章力が測れます。

ある意味、ライティングが満点の人は、難関大学に合格するだけのエッセイを書く実力が十分ある、ということです。

加えて、リーディングのスコアが高ければ高いほど、内容や語彙が豊富なエッセイが期待できることになります。

今後、受験時にエッセイの比重がより高くなるにつれて、SATのリーディング試験の語彙力とライティング試験の内容は、SATのスコアという形ではなく、エッセイを書く際に、それらをいかに適切に応用できるか、という応用力という形で問われてくることになるでしょう。

 

 

 

あくまでも個人的な感想ですが、IBディプロマはIBプログラムらしく、オールマイティーな人材を、APはアメリカの教育らしく、得意分野をひたすら伸ばす特徴があるように見受けられます。

 

ただ、IB受験・AP受験共に、共通しているのは、学業以外に、どのような活動をしてきたかが問われる点で、どちらもグローバル教育にふさわしい一面と言えるのかもしれません。