あれは私が高校に入った頃か、ある男が家を訪ねて来た。

新潟の山間部の農家で、まわりは稲作農家だらけの土地柄の所へ。

その男は一人で来た、農家の副業となる仕事、機織り反物業者として。

機織りの機械を売って、製品の反物を買い取ると言うセールスだった。

 

農家の副業として、機織りはなじみはあった。だが、当時は誰もやってない。

父の後妻は飛びついた。虚栄に満ちた性格で、やると意気込んだ。

機織りはガチャガチャと音が響く、「働き者」とのアピールが出来るので。

 

高価な機械を買って、家を改築して作業場まで作った。織り出した。

始めの頃は、出来上がりの反物を買い取りに、あの男はやって来た。

それからして、今度は製品の出来が良く無くて買い取れない、となった。

こんな事が続いて、注文を出さないようになった。もう、仕舞いにと。

後に残ったのは、高価な機織り機械と、改築にかかった費用のみ。

 

私は、始めのセールスの時、あの男を見て怪しいと思ったものだ。

特徴を挙げる。能面みたいに表情を変えずに、静かに話し、目を合わさなかった。

ぼそぼそ、としていた。違和感を感じた。私は、苦笑いみたいな笑いをした。

 

詐欺師は口八丁とは限らない、声だかで撒く訳でもない、表情多気でもない。

能面の様な詐欺師もいる。本心を隠しての「セールス」である。一例を載せる。