第1、2、3、4、5、6話をご覧になっていない方は、

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マスターに促されて、カウンターの席に腰をおろす。

店内には僕とマスター以外に誰もいない。


「バーボンのロックでよろしいですか?」


「え?あ、はい」


そうだ、初めてこのバーに入った時にも

僕はバーボンのロックを頼んだんだ。


シャキシャキとアイスピックが氷を砕く音が店内に響き渡る。


マスターの手元をぼんやり眺めていると、

一つの疑問が僕の頭に充満してくる。


僕がこのバーに足を踏み入れた理由だ。

1年くらい前、僕は何故このお店に入ったのだろう?


自分が暮らす街や、会社からもぜんぜん離れている

この街のこの店に入る理由がどうしても思いつかないのだ


気がつくと、マスターが僕の目の前にバーボンのロックを差し出した。

僕はその疑問を打ち消すように、

もう一つの疑問をマスターに投げかけた。


「何度もこのお店に足を運んだんですが、

 いつも閉まってたんですけど、

 どこかに長期でお出かけだったんですか?」


するとマスターはにっこり笑ってこう言った


「いいえ、このお店はいつも営業してますよ

 タイミングが合わなかったんでしょう」


タイミングが合わなかった?どういうことだ?

僕はいろんな曜日、そしていろんな時間にこのお店に足を運んだ。

ところが、そのすべてにおいて、

お店のドアは硬く閉ざされたままだったのだ。


マスターに反論しようとしたが、口に出そうとすると、

ソコには有無を言わせないマスターの力を感じて、

僕は黙り込んでしまった。


気後れする自分を隠すようにしてバーボンを勢いよく胃に流し込む。


そしてバーボンのグラスが空になったとき、

後ろのお店のドアが鈍い音を立てて開いた。



そこには彼女が立っていた。



つづく




【 過去の『小説風に描写』 】

02/22 「小説風に描写① ~ エレベータ」

02/23 「小説風に描写② ~ 僕らのキンモクセイ」

02/25 「小説風に描写③ ~ 返せなかった鍵」

02/28 「小説風に描写④ ~ 新幹線で(前編)」

03/01 「小説風に描写④ ~ 新幹線で(中編)」

03/02 「小説風に描写④ ~ 新幹線で(後編)」

03/11 「小説風に描写⑤ ~ 探し物はなんですか(第1話)」

03/12 「小説風に描写⑤ ~ 探し物はなんですか(第2話)」

03/14 「小説風に描写⑤ ~ 探し物はなんですか(第3話)」

03/15 「小説風に描写⑤ ~ 探し物はなんですか(第4話)」

03/18 「小説風に描写⑤ ~ 探し物はなんですか(最終話)」