昨日、映画「黒牢城」を観てきた。
黒沢清監督の作品で、カンヌ映画祭の「カンヌ・プレミア」部門出品作である。
同映画祭には、過去記事でレビューした『箱の中の羊』も出品されている。
荒木村重(本木雅弘)は織田信長に反発して謀反を起こし、有岡城に立てこもる。妻・千代保(吉高由里子)を心の支えに、織田軍に包緯され孤立無援となった城と人々を守ろうと苦心していた。そんな中、信長の使者として天才軍師・黒田官兵衛(菅田将暉)が説得に訪れるが、村重は官兵衛を暗闇の牢に封じ込める。
その後、城内ではいくつもの怪事件が立て続けに起き、誰もが疑心暗鬼に陥っていく。追い詰められた村重は、囚われの身である黒田官兵衛に協力を仰ぎ、事件の解決に挑む。
【冬】:自念
物語の幕開け。人質として城内にいた少年の密室殺人が発生する。
【春】:首
討ち取った敵将の首が、恐ろしい形相に変貌するという不気味な怪異が起こる。
【夏】:寅猿
密書を携えた僧侶が殺害され、同時に高価な茶壺が消失する事件が巻き起こる。
【秋】:天罰
織田方に裏切った家臣にまつわる、不可解な出来事が描かれている。
村重と官兵衛の企みのぶつかり合い
最終的に村重は官兵衛の提案に乗り、ある者の元へ向かう決断を下す。しかしそれは、囚われの身となった官兵衛による、村重にとって屈辱的な結果をもたらす策略であった。ドラマとはいえ、この攻防には感服せざるを得ない。
現実の歴史において、有岡城は最終的に織田軍によって陥落するが、そのとき城内に村重の姿はなかった。総大将だけが生き延び、妻子や家臣は皆殺しに遭うという、武士として最も不名誉な「卑怯者」として、彼は歴史に名を残すことになるのである。
この物語の主人公は、実は妻の千代保
形式上は村重が主人公だが、真の主役は妻の千代保(吉高由里子)なのではないかと思った。 作中で起こった一連の怪事件は、実はすべて千代保が家臣に依頼して引き起こしたものだったのだ。
なぜ千代保がそのようなことをしたのか。その理由は、かつての織田信長と石山本願寺(一向一揆)の戦いにあった。数万人の門徒が織田軍に惨殺されるという悲惨な戦いの中で、千代保はその一向一揆の数少ない生き残りだったのだ。
「進めば極楽、退けば地獄」という本願寺門徒の教えに従って戦い、傷ついた千代保は、やがてその教えとは異なる真意を導き出す。「現世で悪事を働けば、現世で罰が当たる。だから、進むも退くも、その先には等しく極楽が待っている」という思想だ。 そして、その信念は各怪事件の結末として体現されていた。要するに、「悪因悪果(悪いことをすれば現世で報いを受ける)」という結果を突きつけていたのである。
え?……ここで終わるの? という感覚
物語は、城が織田軍に陥落する直前で幕を閉じる。 「これからが本番、一番面白くなりそうだ」というところで尻切れトンボのように終わった印象だ。この先の展開の方がさらにドラマチックになりそうだっただけに、少し名残惜しい。とはいえ、これだけでも147分という長編なので、尺の都合上仕方のないことなのかもしれない。
【まとめ】
戦国時代劇でありながら、本質は濃密な会話劇でありミステリーである。 刀ではなく、言葉で斬り合う入り組んだ心理戦の物語だ。
こうしたテーマであるため、テンポの良さや派手な展開の速さを求める人には向かないかもしれない。物語の世界観に入り込めなければ退屈に感じる可能性もある。しかし、会話劇の妙にのめり込めた自分にとっては、非常に見応えのある面白い作品であった。







