HPVワクチン積極的接種勧奨差し控え、6000人弱の超過死亡
HPVワクチンの積極的接種勧奨を2013年から2019年までに差し控えをした結果、1994年から2007年までに生まれた女子では、一生涯のうちに、2万4600~2万7300万人が子宮頸がんに超過罹患し、5000~5700人の超過死亡につながると推計されることが、北海道大学大学院医学研究院特任講師のシャロン・ハンリー氏らの研究で明らかになった。これは2013年の積極的接種勧奨差し控え前の接種率約70%が維持されていた場合と、現状の接種率1%未満を比較した結果だ。
しかし、12歳女子での接種率が2020年に70%になり、13~20歳女子の接種率についても50%にキャッチアップした場合、超過罹患と超過死亡は約6割、さらに現在は未承認の9価ワクチンを接種した場合には7~8割それぞれ抑制できると推計している。
その他、接種率1%未満の状態が続いた場合、今後50年間(2020~2069年)で、5万5800~6万3700人の超過罹患、9300~1万800人の超過死亡につながるとの推計も出している。
2月10日のLancet Public Healthのonline版で発表された。
日本ではHPVワクチンが2013年4月に定期接種化されたが、2013年6月以来、HPVワクチンの積極的接種勧奨の差し控えが続いている。ハンリー氏はその影響を探るため、▽日本における2019年までのHPVワクチンの積極的接種勧奨の差し控えが及ぼした影響(本来は子宮頸がんにかからなかったはずの患者数とそのために失われた命について具体的な数量値)、▽HPVワクチン接種の勧奨中止が継続され、低接種率が持続した場合における、子宮頸がんの超過的な患者数および超過死亡数、▽接種率の回復による潜在的なインパクトを想定したときの、子宮頸がんの罹患数や死亡数――を推計。
今後のHPVワクチンの接種率については、(1)今後も接種率1%未満が続く、(2)2020-2025年の間に、12歳女子での接種率は徐々に上がり、70%になる、(3)2020年に、12歳女子での接種率は急速に回復し、70%になる、(4)2020年に12歳女子での接種率は70%になり、13~20歳女子についても50%にキャッチアップ、(5)(4)に加え、未承認の9 価のHPVワクチンが使用できるようになる(現在は2、4価のみ)――というシナリオを設定。
最も接種率が低い(1)のシナリオで今後も1%未満が続いた場合では、1994年から2007年までに生まれた女子では、一生涯のうちに、2万4600~2万7300万人が子宮頸がんに超過罹患し、5000~5700人の超過死亡につながると推計。これに対し、(4)では、超過罹患59~60%、超過死亡60%、さらに(5)では超過罹患74~83%、超過死亡72~83%をそれぞれ抑制できるとの推計だ。
その他、今後も1%未満が続いた場合、▽2020年の時点で12歳女子では、一生涯にわたり3400~3800人の超過罹患、700~800人の超過死亡、▽50年間(2020~2069年)で、5万5800~6万3700人の超過罹患、9300~1万800人の超過死亡につながるとの推計も公表している。これらの超過罹患、超過死亡も接種率が高まれば抑制は可能。
ハンリー氏らは、WHO(世界保健機関)が目指している子宮頸がんの根絶は、10万人当たり4人以下であり、これを達成するには、子宮頸がん検診の検診率向上も重要だとしている。
ハンリー氏は、m3.comの取材に対し、「HPVワクチン接種の安全性を裏付ける科学的証拠にもかかわらず、日本政府は6年以上にわたって積極的接種勧奨の差し控えを続けている。それにより、現在12歳の女子だけを考えても、生涯にわたり、3400人から3800人が子宮頸がんとなり、700人から800人が亡くなることとなる。これらの科学的証拠を検討し、積極的接種勧奨をできるだけ早く再開することを願っている」と答えた。
今回の推計の初期段階のデータは、2018年10月の日本医師会と日本医学会合同公開フォーラム「HPVワクチンについて考える」で発表していた(『「HPVワクチンで救えるはずの命」、今後50年で2万人超に』を参照)。