「その」時 | テルコさん 〜天然86歳との付き合い方〜

テルコさん 〜天然86歳との付き合い方〜

娘です。
母の名前はテルコ。
ワタクシ、母のことをどうしても好きになれません。
日々の苦悩を正直に、そしてあっけらかーんとつづります。

5月20日の午前中、老健の看護師さんから電話。

 

 

「もうそろそろだと思います。

私の経験上、この状態になったら1日2日です。

ですので、できるだけ早く一度いらしてください。」

 

 

ーーー

 

 

先週の水曜日にも緊急呼び出しで駆けつけたが、その時は一旦状態が落ち着いたところだったのもあって、妄想話ながらも話すことはできていた。

一見たんなる弱々しい寝たきり老人に過ぎず、さほどの問題はなさそうだった。

だけど直観的に、「さすがに、、、もう先が見えてきたな」と感じた。

 

なんというか、見た目の状態の問題ではなく、、、彼女の中の「諦め」が見えたんだろうな。

 

 

しかし、帰宅してそれを報告するも、家族は信じてくれない。

 

「オババがそう簡単に死ぬわけないじゃん」

「どうせまた吹き返すんだよ」

「なんだかんだ、何年もこのままだと思うよ」

 

 

確かに、テルコさんのことだから、また「死ぬ死ぬ詐欺」を繰り返す可能性もある。

その一方で、「いや、今度こそはたぶん、もう最後だと思う」という感覚も強い。

 

テルコさんに対しては、確執ゆえにあまり優しいことはできなかった。

だけど、1人の人間としては尊重すべきではある。

だから、私のできる限りではあるけど、気持ちよく終末を過ごせるようにという配慮はしてきた。

 

もうあと1日か2日、、、いや、いつかわからない。

確実に「今度会うときが、生きているテルコさんに会うラストチャンス」とわかってる。

 

だったら、このラストチャンスだけは逃してはいけないだろう。

正直なところ、私自身には「会いたい」という気持ちはないけれど、テルコさんは会いたいだろう。

だから、そのテルコさんの意思を叶えるべきだろう。

これが、私が最後にできることだろう。

 

 

だったら、今日行くしかない。

 

日中は仕事をはずせないので、夜の面会の許可をいただく。

 

 

ーーー

 

 

日中は仕事の傍ら、葬儀社選定。

 

またもや「死ぬ死ぬ詐欺」かもしれないけど、いざという時はすぐに葬儀社に連絡しなきゃならないので、今のうちに決めておかないと。

 

 

 

私「葬儀社、どれにする?」

 

夫「えぇっ? どれって・・・何?」

 

私「ほら、私が資料請求して、、、届いてるはずだよね。あの中ではどこがいい?」

 

夫「資料?? なんか来てたような気もするし、電話がかかってきたりしたけど、まだまだだと思ってたから・・・」

 

私「えぇーーーー!!!!?」

 

 

3月末に訪問診療の先生から「もう数日かもしれません。このままの状態だと長くても数週間だと思います。今日明日でもおかしくありません。」と言われたときに、すぐに葬儀社を検索して、いくつかに資料請求をした。

 

それなのに・・・

 

夫は「どうせまた死ぬ死ぬ詐欺なんだから」と思っていたから、資料にはロクに目も通さず、よって、葬儀にはどんな種類があって、どんなプランがあって、それぞれの相場がどのくらいで・・・など、全くわかっていなかった。

 

 

ということを、今さら知ってしまった!!

 

 

というか、どうやら夫は葬式というものをほとんど経験したことがないらしい。

葬式って何するの??という感じで、全くわかっていない。

 

一方私は、35年前に父がなくなったし、親戚の葬式だけでも10回以上参列してるし、友人の葬式の経験もある。

宗教の違いはあれど、流れは共通してる。

通夜が夜にあって、翌日の昼間に告別式があって、そのまま火葬場へ行って、お骨を拾って・・・という大きな流れはわかっている。

 

夫にはそれさえも未知だったのだ。

 

うわわ・・・そりゃ、例え資料を見ても、理解が難しいだろうなぁ。

 

 

察するに、夫の実家は、ほぼ無宗教状態のようだ。

 

例えば、ウチは浄土宗だし、菩提寺もお墓もある。

けど、夫は先祖のお墓というものがあるのかどうかさえも知らないそうだ。

 

「そりゃ、どこかにあるんだろうけど・・・でも、お墓なんて行ったことないし、どこにあるか知らないし、誰が入ってるか知らないし・・・」という感じ。

 

 

いやぁ・・・こりゃ大変だ。

 

 

とりあえず、資料を見ながらざっくり説明する。

(ちなみに、資料はどこの葬儀社も同じようなものだ)

 

もう大変よ。

 

 

で、結局、一日葬にすることにした。

 

 

 

テルコさんの葬儀にあたっては、基本参列者の予定はない。

親戚は、葬儀に来ていただくような範囲の人はみんな先に亡くなっている。

 

年賀状だけでつながっている親戚もいるけど、だからといって葬儀に来ていただくには関係が遠すぎる。物理的な距離も遠い。

下手にお知らせしても、「お知らせをもらっておいて、行かないわけにはいかない」という負担にさせるイメージしかない。

 

友人知人については、全く把握していない。

友人と会う、とか友人が家に来るということがなかったから、わからないのよ。

あえていうなら麻雀での人間関係があるだろうけど、雀荘で会うだけだから、個人的な交流はないようだし。

 

ということで、そもそも葬儀のお知らせをするところがないのです。

 

 

私たち家族だけ。

孫にあたる私の子供たちには、お知らせはするけど参列は強制しない。

ま、お知らせしたら参列すると思うけどね。

だから、最大で5人。

 

だから、正直いえば、直葬でいいと思っている。

 

それは、、、テルコさんを軽んじている結果ではなく、そもそも私自身が葬儀不要派だから。

私自身の死後については、「葬儀は不要。火葬は法律で決まっているのでそうするしかない。墓も不要。骨はどうしてくれても構わない。骨壺にも入れずに「このまま処分してください」って火葬場で処分してもらうでもOK」と子供たちに伝えてある。

 

テルコさんについては、直葬を知らないということもあるし、当たり前に葬式をするものだと思っているわけだし、お坊さんに御経をあげて欲しいと考えているらしいし、墓に入れて欲しいと思っているらしいことを察している。

 

だから、最低でも直葬にお坊さんを呼ぶ形式かな、と。

 

 

 

で、菩提寺に電話してみた。

ざっとこんな感じの回答

  • コロナをきっかけに、一日葬、直葬が増えた
  • 一般葬・一日葬・直葬、どれも家族の思いが込められていることが大事で、現実的な予算等でやむを得ずに直葬という選択になる場合は、それはそれで仕方ない
  • 僧侶という立場からいうと、無事にあの世に上がっていただくためには、通夜、告別式というのが一番よい
  • 直葬の場合、そこで唱えるお経は炉前用の10分ほどのもので、葬式で唱えるものとは異なる。そして、葬式で唱えるべきお経は、後日お寺に来てもらって別途おこなう。ということで、直葬は二度手間のような感じになる。
  • つまり、直葬というのは、とにかく火葬だけを急ぐという特別な事情が生じた場合だけ、というのが現実。そういう特別な事情がない限りは、できれば一般葬、最低でも一日葬がよい。
 

なるほど。

それならば、一日葬にしよう。

 

菩提寺とはこれまでのお付き合いもあり、これからのお付き合いもある。

ここで「何が何でも直葬!」を通さなきゃいけない理由はない。

かといって、やはり一般葬は重い。

 

葬式って、僧侶、葬儀場、火葬場、すべての予定を合わせなきゃならない。

とくに今は火葬の予約がなかなか取れないそうだ。

ここに家族の予定(土日)を合わせようなんて、至難の業。

 

だからといって、それらが合う日をそんなに先には伸ばせない。

 

となりゃ、僧侶、葬儀場、火葬場の予定をまずおさえ、ここに合わせられる家族だけでやるしかない。

 

土日が無理で、平日になってしまったら、自動的に夫は参列できない。

ここに子供たちが参列しない選択をしたなら(しないと思うけど)、私ひとりになる。

 

私ひとりで、通夜と告別式・・・これは重い。

っていうか、現実的な話をすると、一般葬の価格がバカ高い。

 

これが、現役で働いていて、それなりに立場があったり、それなりに参列者があったり、そして親戚が集まる場にもなるのなら、まだ飲み込める額なのだが、、、家族5人だけ(最悪1人)と思うと負担感満載。

 

ということで一日葬かな。

 

 

 

夫は、いろいろネットで調べ、いくつかの葬儀社に電話をかけていた。

 

・プランに含まれるもの

・プランに含まれないもので、必要となりそうなもの

・予想されるトータル金額

 

このあたりを確認。

 

 

各社の内容はちょこと違うけど、結局トータル金額はどの会社も同じになる。

 

例えば、

 

・A社は3日間を過ぎると、遺体保管料が1日1万1千円

・B社は5日間を過ぎると、遺体保管料が1日2万2千円

 

この場合、火葬の日程が5日以内に決まるとわかっていればB社にするけど、もし火葬の日程が2週間後になったらA社の方が安くなる。

でも、火葬の日程は葬儀社に手配してもらうわけで、葬儀社を決める前にどっちが得かなんて誰にもわからない。

 

ある意味、どこでも同じ、どこでもいい、という感じ。

 

3社ほどの候補から、まずは、電話応対で感じが悪かったところを候補から外す。

あとは、残りの2社のどちらか、、、どちらでもいい。

 

 

ーーー

 

 

その夜、夫と老健を訪ねる。

 

テルコさんは、いびきをかいて寝ていた。

 

 

 

このところほとんど食事もとれていなくて、さらにもう18時間も尿が出ていないそうだ。

つまり、毒素が排泄されずに体にとどまる状態であり、そうなると・・・ということだ。

 

 

 

特に、見た目に変化はない。

普通に寝ているだけ。

とてもあと1日2日には見えない。

 

 

 

「何かお話されますか?」と看護師さん。

 

 

いや、、、、

せっかく寝ているのに、しかも消灯後の時間帯なのに、わざわざ起こすのは気が引ける。

 

 

「起こしましょうか?

起こせば起きると思いますよ」

 

って言ってくれたけど・・・

 

「いいえ、このままでいいです。」

 

起こさないという選択をした。

 

 

だってね、いつも「眠れない」って言ってた人が、寝てるのよ。

これを起こしたら、また眠れない地獄になるかもしれない。

 

そこまでして話したいとは思わないし、そこまでして伝えておかなくちゃいけないこともない。

 

そして、たぶんだけど、、、眠ってはいても私たちが来たことはわかると思う。

テルコさんの無意識には届いているはず。

それでいい。

 

 

私たちは、老健を後にした。

 

 

ーーー

 

 

そして、その深夜、電話が鳴った。

 

夜中の3時。

 

こんな時間に電話、となれば、もう予想できることは1つ。

 

 

 

やはり、老健からの電話だ。

 

 

「先ほど呼吸が止まりました。

すぐにこちらに来ていただけますか。

それから、葬儀社にも手配をお願いします。」

 

 

夫と老健に向かう。

歩きながら葬儀社に電話をする。

 

 

テルコさんとの面会は、たった数時間前。

もうこれがおそらく最後の面会だとわかってはいた。

けど、本当にギリギリ間に合ったというタイミングだったんだな。

よかった。

 

 

 

数時間前のテルコさんと、見た目は全く変わらない。

 

「オババ、お疲れさま」

 

と声をかけた。

 

 

 

苦しむこともなく、まさに眠ったまま逝ったようだ。

それはよかった。


 

 

「もう葬儀社に来てもらっていいですか?

死亡診断書がないと搬出できないと聞いたのですが・・・」

 

「はい、大丈夫です。

いま診断書を書きますので、葬儀社さんには連絡してください。」

 

 

夫が葬儀社に電話をする。

 

が、、、

 

 

「すみません!

死亡診断書なんですが、いま事務の者がいなくて、ハンコが押せなくて、、、

明日、事務の者が出勤してからの作成になりますので、搬出は明日にしてください。」

 

 

えぇーー!

 

あわてて、葬儀社にキャンセルの電話。

 

 

ということで、こんなドタバタの末、一旦帰宅となった。

 

 

ーーー

 

 

翌朝、5月21日。

指定された時間に老健に到着。

 

すでに葬儀社も到着していた。

 

 

安置されている部屋に通される。

 

ちなみに霊安室ではない。普通の会議室(面会室)。

老健だからなのか、ここで最期を迎える前提にはなっていないようだ。

 

 

テルコさんは口紅を塗られていた。

 

「オババ、口紅塗ってもらったの?

キレイだよ。」

 

 

そして、テルコさんは車に載せられ、安置所へ向かっていった。

 

老健のスタッフさんが大勢、お見送りをしてくださった。

 

 

老健入所が4月20日。

ちょうど1ヶ月。

 

寝たきり状態とはいえ、週に1〜2回は少し麻雀もできた。

 

「金曜日も麻雀されていたんですよ。

まぁ、(体力持たず)1時間もできなかったんですけど。」

 

そうか、それはよかった。

 

 

死亡診断書の死因欄は「老衰」と書かれていた。

病気もなく、痛みも苦しみもなく、静かに幕を閉じた。

 

 

上を望めばキリがないが、ほぼ理想的な終末だったと思う。

 


ーーー

 

 

テルコさんを見送り、老健にご挨拶をし、家路につく。

 

悲しみも、後悔も、残念な気持ちも全くない。

むしろ清々しい。

 

 

テルコさんには確執もあったが、その中で出来る範囲で最高の最期になったと思う。

 

寝たきりたった2ヶ月。

老健では麻雀もできた。それも死ぬ数日前まで。

そして痛みも苦しみもなかった。

ほぼピンピンコロリ。

 

もう、満足ですよ。大満足。

あぁ、よかった〜

このひと言しか出ない。

 

私にとっても、「やりきったぜぇ〜」という達成感。

自分なりに頑張ったよ

 

お疲れさま、テルコさん。

お疲れ、私。

 

 

ーーー

 

 

そして・・・

備忘録の目的で、ここ数ヶ月についてはバックデートで投稿していこうかと思います。

 

同じように介護をされている方の参考にもなれば幸いです。