こんばんは。
早速ですが、考えてみたいと思います。
第54回試験・専門知識
(a)
数値予報の計算における数値予報モデルの初期値は客観解析から作成されていますが、この初期値には、観測誤差などの影響でわずかな誤差が含まれています。このため、仮に数値予報モデルが完全なものであるとしても、その初期値に含まれるわずかな誤差が時間とともに増大し予測結果に大きく影響してしまいます。この結果、総観スケール現象の予測可能な時間は2週間程度といわれており、予報には限界があることになるわけです。このように一つの初期値で一つの予報値を求める手法を「決定論的予報」といいます。
気象庁ではこのことを考慮して、初期値に微小な誤差を持たせた多数の初期値(摂動を加えた少しずつ異なる多数の初期値)を与えて計算することにより、初期値の誤差の拡大を把握したうえ、計算結果を統計的に処理し、最も起こりやすい気象状態を予測しています。このような手法で行う予報を「アンサンブル予報」とよんでいます。
アンサンブル予報は現在、週間天気予報、1か月予報、3か月予報、暖候期予報、寒候期予報、台風予報に用いられています。
したがって、本文の内容は正しいということになります。
(b)
数値予報モデルが持つ偏ったところで発生する誤差のことを「系統的誤差」といいます。また多数の初期値について数値予報モデルによって計算して求めた個々の予報値のことを「メンバー」とよんでいるのですが、このメンバーのすべてが同じ系統的誤差を含む数値予報モデルから出力されているため、これらのアンサンブル平均を取ることによっても系統的誤差は除去することはできません。
したがって、本文の内容は誤りということになります。
(c)
アンサンブル予報における各メンバーの予報値のバラつき具合を「スプレッド」とよんでいます。
(気象庁HP: 予測に伴う誤差とアンサンブル予報 より)
スプレッドが大きいときは初期値のわずかな違いで予報の結果が大きく異なってしまうことを意味しますので予報の信頼度が低いと判断されます。また逆に、スプレッドが小さいときは予報の信頼度が高いと判断されます。
したがって、本文の内容は誤りということになります。
(d)
アンサンブル予報などによる確率予報の精度評価には、「ブライアスコア」という指標を用いています。
(降水確率予報の精度評価の例: 2020.08.18 【第54回直前】予報精度の評価《第28回試験・専門知識・問14》(考察編)より)
下線部を読みますと、「現象の気候学的出現率の影響を受けるため、出現率の異なる現象に対する確率予報の精度の比較に適さない。」とあります。
これはどういうことか、例を挙げて考えてみます。例えば乾燥地域のように年間に数日しか雨が降らない地域に対して、「降水確率0%」
という予報を出し続けた場合、予報が外れるのは稀で、予報はほとんど実況と一致することになります。その結果、ブライアスコアは0に限りなく近い極めて良い値となりやすいことになります。一方で年間の半分程度に雨が降るような地域で、乾燥地域の例のようなブライアスコアを出すのは困難であり、相対的にブライアスコアは悪くなります。この両者のブライアスコアの差は、降水の気候学的出現率の違いによるものと考えられ、出現率の異なる現象に対する確率予報の精度の比較には適さないといえます。
したがって、本文の内容は正しいということになります。
よって、正解は③ということになります。
では。