写真集を買いました。
『ソール・ライターのすべて』です。
Amazonで2,750円でした。写真集としてはお安い。
ソール・ライターは、ニューヨークで活躍したフォトグラファー。
10年前の2013年に89歳で亡くなっています。
ぼくもね、一応、写真史を学んできた人間ですから、彼のことは前から知ってましたけど、じつは、それほど刺さる感じはなかったんですよ。
ニューヨークの写真家というと、ぼくはダントツでウィリアム・クラインが思い浮かんでしまう。その名のとおり「ニューヨーク」と題された写真集を手に取ったときの衝撃はいまも覚えているほどです。
つぎにダイアン・アーバスかな。あの双子の写真で有名な写真家。
ロバート・フランクもニューヨークでしたかね、たしか。彼の場合はニューヨークを超えて、もっと幅広いイメージがあるけど。
そうそう。ブルース・デヴィッドソンの「Subway」もすごかったな。ガツンと頭を殴られたような気がしましたっけ。
若いころはね、憧れるんです。ヤバいくらい強い写真に。
で、やっとソール・ライターです。
もう若者ではないぼくは、やっとソール・ライターの写真を理解できるようになったようです。自分の感受性が近寄っていったのかな。
そもそもソールは、画家になりたかったんです。おそらく印象派と呼ばれる画家に。
1946年。22歳のソールは、画家になる夢を抱いてニューヨークに移り住みました。しかし彼はファッション写真家として成功しました。画家として絵が売れることはなく、それどころか写真作家としての世界的な成功も、最晩年の82歳になってからなんですよ。
職業フォトグラファーとしての全盛期は1950年代からの20年間ほどで、それ以降はあまり大きな話題にならなかったソールの写真がふたたび注目を浴びるきっかけになったのは、フランシス・ベーコンの研究で有名だったイギリスの美術史家、マーティン・ハリスンがソールのカラー写真を編集して、2006年に出版した『Early Color』 なのです。
先ほども書きましたが、このとき、ソールご本人はすでに82歳。
なぜ、ソールの写真が埋もれていたのか。
それはぼくが若いころソールの写真に刺さらなかった理由と、もしかしたら同じかも知れません。
彼の写真は「静か」なのです。
さらにソールは、日本画の影響を強く受けていて、西洋では重んじられる遠近法などの「わかりやすい理論」から外れているのです。
自分でいうのもなんだけど、若いころのぼくはとにかく理屈っぽくて、主にアメリカで発展した写真理論を実践しようと必死でした。
でもいまになって……まあ、それこそ自分でいうのもなんですけど、いい意味で「枯れて」きたんでしょうね(苦笑)。日本の美術って、いいなあと思いはじめ、ソールの写真にも、ぐっとくるようになった。
ああ、こういう写真を撮りたいなあ。
さっきソールの写真を「静か」といいましたけど、そこに暗さはありません。彼がニューヨークを愛していたことがよくわかる。
先のマーティン・ハリソンはこう書いています。
彼はマンハッタンの大混乱の中で静かな人間らしい瞬間を捜し、最もありそうもない状況からユニークな都会の田園詩を創り出した。
都会の田園詩ですよ。さすがソールの写真を編集した人だけあって、まさにそのとおり。
この本を買ったあとに知ったのですが、奇しくも、7月8日から渋谷のBunkamuraで、ソール・ライターの回顧展が開かれるそうです。
『ソール・ライターのすべて』
回顧展を観るための、よい予習になりました。
▼ Kindle出版情報
神宮寺珈琲店・其の伍(5)
ASIN : B0BVZWPL5J 490円(税込み)
JunkCity3
ASIN : B09D6LHS48 410円(税込み)
こちらの作品も引き続きよろしくお願いします。
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神宮寺珈琲店 其の弐
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