帰国子女の苦悩 | 寺澤芳男のブログ

寺澤芳男のブログ

寺澤芳男がオーストラリアのパースから、様々なメッセージを発信します。

 外国勤務となり、子供が生まれたり、まだ幼い子供をつれて日本からやってくると、四、五年先に帰国したとき、多分日本語の分からなくなっている子供をどうしたらよいか、悩んでいる夫婦はたくさんいる。

 年齢にもよるが、小学校の四、五年生から中学二、三年生になると、その悩みはいっそう深い。

 一番の問題は言葉である。正直に言って、英語も日本語も両方とも完璧ということは、まずありえない。教育の仕方にもよるが、だいたい両方とも中途半端になりかねない。

 一般論だが、問題は女子よりも男子の方が深刻のようだ。両親が、日本の一流の大学に入れたがるからだ。日本にいる親たちと同じで、学歴が男の子たちの将来のために、やはり必要だと考える。

 慶応のニューヨーク学院のように、現地に中高一貫の施設を持つ私立の学校もあるが、やはり数は少ない。

 日本に帰って、ニューヨークなまりの英語ででも話そうものなら、日本語のような発音しか出来ない英語の先生ににらまれ、いい点はもらえない。

 それはそうと、日本における英語教育ほどふしぎなものはない。たとえば、オーストラリアでも日本語を勉強しているオーストラリア人もたくさんいるが、先生は日本人が多い。日本語の発音を日本人の先生からきちんと教わるから彼らの日本語はきれいだ。

 アメリカでも、フランス語はフランス人から、ロシア語はロシア人から教わるのが普通である。日本人の英語教育を、小学校から始める必要はないとわたくしは思うが、現状のように中学からでも、英語圏の先生から直接英語で教わるようにしたらどうなるのだろう。

 こんなことは話だけで、絶対実現不可能なことは十分承知の上だ。英国、アメリカ、オーストラリア、カナダ等からニ、三万人と英語の先生に来てもらって、まだ頭の柔らかい十三歳くらいから中高一貫教育をやってもらうとしたらどうなるか。もちろん二、三万人の日本人の英語教師の職は奪われることになるから、日教組は大反対するだろうし、今の民主党政権ではできる相談ではない。

 帰国子女は、若い時から外国の文化を身につけた、国際化の進む日本にとっては「宝もの」のような貴重な存在だという、もっともらしい議論はあまり現状を知らない人たちのものである。

 帰国子女が日本に戻ってから受ける逆カルチャーショックは、大きく深刻だ。華やかなテレビアナウンサーのように、日英両語を流暢に使い分けして大活躍している女性たちはごくごく少ない。ほとんどの人たちは、日本と育った国との文化の揺れ動く狭間で悩んでいる。

 日本の一流大学にうまく入学出来てからも、悩んだあげく登校拒否をしている人も多い。日本の社会が外国人に対してのみではなく、かって日本人だった外国育ちの人たちに対しても絶望的に閉鎖的だからだ。

 わたくしの考えだが、外国育ちの日本人を無理をして日本に戻し、日本の一流大学に入学させるよりも、その国の大学で、その国の言葉でゆったり教育させた方が、何か自然のような気がする。

 そして将来、そういう日本人が各国で弁護士になったり、医者になったりしてもよいのではないかと思う。