コレットは~15話の続き妄想的な何か01 | よりみち小部屋。(倉庫)

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先日の予告にあった、スキビ以外のブツ。
『花とゆめ』連載中の「コレットは死ぬことにした」の続き妄想です。

元々は9話が本誌に掲載されたときに考えたお話。
それに15話までの要素をねじ込んだのでかなりおかしい部分があるかと思われるけれど、折角書いたのだからアップしてみる。

以下、興味のない方はバックプリーズ。






「はーっ、今日もよく働いたっ!」

コレットはうーんと伸びをする。
天界に来て5日。
日々訪れる患者(自称も多数)を相手にしていると、あっという間に時間が過ぎていく。

ゼウスの発言により、天界の薬師アポロンの不在を埋めることになったコレット。
ハデスの口利きによりアポロンの宮殿に身を寄せている。
初めは不安も大きかったが、立派な薬草園を使わせてもらうことができるし、アポロンの家来である柊も協力的だ。なぜかふらふらとよくあらわれるゼウスも手伝ってくれる。
とんでもないお門違いの相談をしてくる女神たちや見たことのない獣の病を治してくれと要求してくる神々もいて戸惑うことも多いが、得るものも多い。
おなじみの薬草の別の効能やこれまで試したことのない調合法も学び、コレットは充実した日々を送っていた。

「今日はさすがにちょっと疲れたなぁ……」
どどっと押し寄せる女神たち。殆どがそれほど深刻な症状を訴えるわけではなく、話を聞くことが一番の治療になるという状態。
けれどその一番の治療を施す使命を持つのがコレットだ。
柊に半ばあきれられながらも、コレットは女神の重要そうでまったくそうでない話を聞いているのだった。

「ふー……」
ごろりと床に横になり、息を吐き出す。
夜も更けて外にはもう「本日は終了」の看板を出してあるから、冷やかしの女神たちも来ないだろう。
昼間の喧騒が嘘のように静まり、遠くからはかすかに虫の声が聞こえる。
「流石にちょっと疲れちゃったなあ……」
そっと目を閉じると、眠気が襲ってくる。
このまま眠りに落ちると気持ちいいだろう、身を任せてみようかとコレットは思ったのだが……
「いけないっ!」
叫んで飛び起きる。

「あぶないあぶない。まだ仕事は終わってないじゃない!」
特定の薬をアポロンに調合してもらっていたという女神。
薬が切れてしまったので、明日の朝までに用意しておいてくれと依頼されたのだった。
「薬を作るまでが、今日の私の仕事!」
ぺちぺちと頬を手のひらで打ち、気合を入れる如く額にもぺちり、と一撃をくらわせる。
丁度そこは、ハデスから加護を受けた場所だ。コレットは手のひらでその部分を撫でる。

ハデスからの加護は危険にさらされた身を救ってくれる。
しかしそれは、ハデスの力を代償にしている。
ハデスはその身を削り、コレットを守っているのだ。
それに対して、コレットがハデスにできることなど何もない。
あるとすれば、今目の前にある仕事を、きちんとこなすことだ。
「うん、……がんばらなくっちゃ」
額をもうひと撫でしてから、コレットは立ち上がった。

「柊ちゃんが戻ってくるまでに、基礎調合は終わらせておこう」
コレットは急いで乳鉢と乳棒を用意して、アポロンの書付を確認しながら薬草を準備する。
「やっぱり、足りないのよね……」
目的の薬を作るには、いまここにストックしてある薬草だけでは数種類足りない。そこで、柊に薬草園まで取りに行ってもらっているのだ。
「柊ちゃんも私に付き合って働きづめだし。ってゆーか、私のお世話までしてくれてるし。戻ったら早く休めるようにしてあげよう」

上皿天秤で瓶に入った薬草を量りとり、乳鉢に移す。それを数回繰り返した後、乳棒でごりごりと薬草をすり潰す。
次の素材は、と手にとった瓶のラベルを確認して、コレットは眉をひそめた。
瓶に入っているのは地上では希少な薬草。
元になる植物は地上ではごくわずかな限られた地域にしか分布しておらず、うまく採取できても乾燥して薬草にするまでに手間がかかる。
さまざまな病への効能が確認されており、需要も高いのだが手に入らないのが現状なのである。

しかしその植物は天界では常に生い茂っており採取もたやすく、乾燥させるのも神々の力を使えば一瞬なのだという。
天界の薬でにはこの薬草が多用されていると聞いてコレットはため息をつかざるを得なかった。
「ぜーたくなもんよねー……」
簡単に入手できるのだから、多用されるのには納得がいく。しかし地上との落差には納得がいかない。
ここに山ほどあるのなら地上に持ち帰って使いたいとも思うが、生憎天界のものを人間が口にすることはできないために持ち帰っても無意味だ。
目の前にあるのに、どうにもできないのがもどかしくてたまらない。
コレットは深いため息をついてから、瓶のふたを開けた。

先ほどと同じように、上皿天秤で薬草を量りとる。しかしその手つきは先ほどよりはるかに素早い。
必要な分量を量り撮れたことを確認すると、コレットは瓶のふたをきっちりと閉めた。
貴重なこの薬草は湿気にも弱い。密閉した状態にすぐに戻すのが望ましいのだ。
(まあ、天界じゃそんなことしなくてもいいのかもしれないけどね……)
身についた習慣だから仕方ない、とコレットは瓶を置いて薬草をすり潰す。
あらかたつぶれたところで、また書付を確認する。

「げ。次も貴重な薬草のオンパレードじゃない……しかも同時に入れるって……」
指定されていたのは3種類。どれも先ほどの薬草と同じく、地上では貴重なものばかりだ。
コレットはまたため息をついて、薬草棚から瓶を取り出す。
天界と地上の違いを考えたら負けだと自分に言い聞かせながら、それぞれの瓶から薬草を上皿天秤に乗せて量りとっていたのだが……

カンカン、と外に置いてあるノッカーを打つ音がした。
コレットは柊が戻ったものだと思い入り口を振り返ったが、入り口の幕が上がる気配はない。
再びノッカーが鳴らされて甲高い音が響く。どうやら柊が戻ったわけではないらしいと、コレットは作業の手を止める。

表には「本日は終了」の看板を出してある。女神たちは来ないはず。
考えられるとすれば急患だ。立ち上がったコレットを急かすように、また扉が激しくノッカーが鳴らされる。
視界の隅に開けっ放しの瓶が入ったが、患者がいるのならばそちらが優先だ。
コレットは入り口に駆け寄った。
「はぁい!」

カンカン、と激しく鳴らされるノッカーの音にせかされながら幕を上げると、そこにいたのは1人の女性。おそらく女神の1人だろう。
ただ、頭から布を被っているのでその顔は確認できない。
「えーっと、どうかなさいましたか?」
尋ねるコレットを布越しに見つめていた女性。
「あなたが、人間のコレット?」
一呼吸置いてから、高く美しい声で尋ねてきた。
突然の質問にコレットは驚いたが、天界にとって自分は異質な存在だということを思いだす。
「はい。地上の薬師ですが、このたびアポロン様がご不在の間、臨時で薬師を務めさせていただくことになりました」
「そう。それで、あなたは冥府にも?」
続く質問に、コレットは戸惑う。冥府に出入りしていることはここでは伏せていたはずだ。
何故この人物はそのことを知っているのだろう。コレットが答えに困っていると、女性は一歩コレットに近づいてきた。
「黙ってるってことは図星よね。うん、あなたで間違いないみたいね」
「え?」
次の瞬間。女性は懐から小瓶を取り出し、コレットの鼻先に近づけた。

(これっ……)
つん、と鼻の奥に感じる刺激。
これは吸い込んではいけないものだ、と察したがすでに遅い。
コレットは意識を手放し、その場に崩れ落ちたのだった。





全4話もしくは5話になる予定。
リミットは次の花ゆめ発売まで。


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