スイート・バレンタインを2人で(後編)メロキュンプレゼンツ!!《ハッピー♡プレゼント!!》 | よりみち小部屋。(倉庫)

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メロキュン参加作品、後編。
蓮さん視点にしたら、メロキュン?メロキュンなのか?な着地点に。

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スイート・バレンタインを2人で(後編)
メロキュンプレゼンツ!!《ハッピー♡プレゼント!!》



皿を片づけると言ってキッチンへと駆け込んだキョーコは、なかなか帰ってこない。
原因に心当たりがありすぎるほどある蓮は、迎えに行くと逆効果になってしまうこともよくわかっており、リビングに座って待つことしかできない。

昨年はもらえなかった、キョーコからのチョコ。
何度も味見をして作ったというチョコレートムースは、蓮のためだけに作られたものだった。
つきあう前からも律儀だったキョーコが、バレンタインを一緒に過ごすことになっているのに蓮の喜ぶことをしないわけがない。
そう思って、こちらからもプレゼントを用意していたのに。
「あれは、反則だろう……」

ケーキを受け取った時にふと湧いた「食べさせてもらいたい」という要求。
断られると思っていたがキョーコが了解し、食べさせてくれたという事実だけで理性の紐が緩み切っていたのだが。
蓮が食べ終わった後に見せた、顔を真っ赤にしながら安堵の息を吐いたあの表情に理性の紐はぷつりと切れてしまった。
唇を容赦なく奪って、その先に……と暴走しそうになる自分を押さえて頬にキスするまでにとどめたのだが。
キョーコには刺激が強かったらしく、キッチンに逃げ込んだままになっているのだ。

恋人同士になってからもっと激しいキスだってしているのに、どうしてこんなに戻ってくるのに時間がかかってくるのだろうと蓮は不思議に思う。
しかし蓮のせいでキョーコがキッチンに引きこもってしまったことは事実であるし、せっかく用意していたプレゼントもまだ渡せないままである今、蓮は苦笑するしかない。
用意してあった15センチ四方の薄い箱をそっと取り出し、キョーコが先ほどまで座っていたラグの上にそっと置いて、蓮はキョーコが戻るのを待った。

たっぷり10分は経過してから、キョーコはようやくリビングへと戻ってきた。
途中で自分が先ほどまで座っていた位置に見覚えのない薄い箱が置かれているのに気付いたのだろう。
元の場所に戻るなり、しゃがんでそれを取り上げる。

「敦賀さん、これ……?」
かわいらしいピンクの包装紙に包まれている、薄い箱。箱にはかわいらしいミニコサージュのついた白いリボンがかかっている。
「うん、俺からのバレンタインのプレゼント」
「え?バレンタインのプレゼント、って……敦賀さんが私に、ですか?」
「うん、そうだけど?」
キョーコは箱を持ったまま、困った顔をしている。
「あの……バレンタインというのは女性から男性へとプレゼントする日であって、そのお返しはホワイトデーにしていただくものじゃないんですか?」
蓮の想像通りの答えを返してくるキョーコに、蓮はにこりと微笑みかけた。
「それは日本の場合。海外では男性からプレゼントするのも普通だよ」
「そう、なんですか?」
「うん。迷惑だったかな?」
「えっ!いえ!決してそんなことは!」
「それなら受け取ってもらえるよね?」
とどめとばかりに微笑んだ蓮に、キョーコは何も言えなくなる。
「ありがとう……ございます」
納得はしていなくても礼を述べたということは、キョーコに受け取ってもらえたということだろう。蓮はまた、微笑んだ。

「よかったら、開けてくれないかな?」
「え?今、ですか?」
「うん。プレゼントはその場で開けて楽しんでもらうのが一番だし。それに、俺だけおいしいものを食べさせてもらったまま、というのも気が引けるしね?」
「これ……食べ物、ですよね」
「うん、多分君の予想通りだと思うけどね。開けてみて」

蓮に促されてキョーコはコサージュをつぶさないように気を付けながら、そっとリボンを取る。包装紙も丁寧にゆっくりと、外していく。
出てきたピンクの箱のふたをそっと開けた途端、キョーコは感嘆の声を漏らした。
「うわぁ……かわいい……」

箱の中に並べられていたのは、チョコレート。
小鳥や四葉のクローバー、クラウンや真っ赤なハートなど、さまざまな形のチョコレートが並び、その合間には花や植物をプリントしたチョコレートが並べられている。
それらは的確にキョーコのときめきスイッチを押したらしく、キョーコはじっとチョコレートを見つめて目をきらきらと輝かせている。
「気に入って、もらえた?」
「はいっ!」
「喜んでもらえてよかった。実は雑誌で見かけてね。君が好きそうだな、と思ったんだ」
蓮の言葉にキョーコは頬を染めて俯いたが、すぐに顔を上げる。
「かわいくて、大好きです!ありがとうございます、敦賀さん!」
照れてはにかんだキョーコの笑顔を正面から見てしまった蓮は一瞬固まってしまう。
しかしすぐに覚醒し、すっと箱をキョーコから取りげてテーブルに置くと、チョコレートに手を伸ばした。
「じゃあ、さっそく食べてもらえる?」
「え……?」
蓮の長い指が小鳥の形をしたチョコをつまみ、キョーコの口元に持っていく。
あっけにとられたキョーコだったが、蓮が指で唇をつついて口を開けるように促したので、それに従う。
その直後にチョコレートが押し込まれ、キョーコの口の中に何とも言えない甘さが広がった。

「おいしい……」
口内で溶けたチョコレートのように、ふにゃりと表情を蕩けさせるキョーコ。
蓮はキョーコがチョコレートを味わう様を、甘く蕩けた表情で見守った。

「敦賀さん、ありがとうございます。とってもおいしかったです」
チョコレートを食べ終えたキョーコは、ぺこりと頭を下げる。
「もういいの?」
「はい!こんな素敵なチョコレート、食べてしまうのはもったいないので、少しずついただこうと思います」
「そうなの?」
「はい。あ!でも本当においしいのでよかったら敦賀さんも召し上がってください!いただいたものを勧めるのはどうかと思うのですが、1人で食べるのはもったいない気がして……」
頬を染めて上目づかいに言うキョーコのかわいらしさに、蓮の理性の紐が決壊する。
「そう、じゃあ、お言葉に甘えていただこうかな……」
「はいっ!どうぞ」

蓮はクラウン型のチョコレートをつまみ、それを自分の口ではなく、キョーコの口に運んだ。
「敦賀さん?…んっ」
チョコレートをキョーコの口に押し込んだ蓮は、片手でキョーコの肩を掴み、もう片方の手ですっとキョーコの顎を持ち上げてゆっくりと顔を近づける。
蓮の行動の意味するところに気付いたキョーコは、ゆっくりと目を閉じた。

キョーコの唇まであと少し、と迫ったところで。
蓮ははっと我に返る。
(俺は……何をしようとしている?)

蘇ったのは一年前のバレンタインデーの光景。
「DARK MOON」の撮影現場に突如花束を担いで現れた不破尚が、チョコレートをキョーコの口に押し込んだかと思うと。
尚はキョーコにキスをして、口からチョコレートを奪い返した。
キョーコのファースト・キスが奪われた瞬間だった。

あれは蓮にとってはもちろん、キョーコにとっても嫌な記憶であろう。
尚と同じことをしようとしている自分に気付いた蓮は、ぴたりと動きを止める。

一方、キョーコはもたらされるはずの熱がいつまでたってもおりてこないことを不審に思い、目を開けた。
すると、ごく近い距離で固まっている蓮が目に留まる。
「敦賀さん……?」
「あ……」
キョーコに呼びかけられた蓮は、ぱっとキョーコから離れて頭を下げた。
「ごめん……」
「敦賀さん……どうして謝るんですか?」
「いや……その。君に、嫌なことを思い出させちゃったんじゃないかな、と思って。その……去年のバレンタインの……不破とのこと」
蓮がぽつりぽつりと話すうち、キョーコの表情が徐々に曇っていった。
ついには俯いてしまったキョーコに、蓮はどんな言葉をかけていいものかわからなくなってしまった。

「酷いです、敦賀さん」
しばらくしてから、俯いたままのキョーコが口を開く。
「酷いです」
小さく細く蓮を責める声に、蓮の心がちくちくと痛む。
「ごめん」
蓮にはただ謝ることしかできない。巻き戻せるならば時間を戻したいとさえ、思う。
「ごめん……君に嫌な思いをさせるつもりじゃなかったんだ…でも、不破と同じことをするなんて。最低だよね、俺」
「本当に、最低です……」
ずきずきと心が痛み、蓮がキョーコから視線をそらせようとしたその時、急にキョーコはがばっと顔を上げる。
「私を散々、振り回すんですから!」

顔を上げたキョーコは、蓮にまず「そこに正座してください!」と要求する。
言われるがままに正座をした蓮。キョーコはその正面に正座し、すごい勢いで説教を始めた。
「私、敦賀さんに言われるまで忘れてたんです、アイツのこと!それなのに思い出させるなんて、酷いです!」
「うん……ごめん」
「去年のバレンタインで思い出すのなんて、敦賀さんの過剰なお礼だけで十分なんです!あれは恥ずかしすぎて封印しておきたい過去の一つなのに、敦賀さんってばさっき同じことをするから思い出しちゃって大変だったんですからね!」
「え……もしかして、さっき?」
蓮が尋ねると、先ほどの勢いは急に消え失せ、キョーコは顔を真っ赤にして俯いた。
「キッチンから出てこなかったのは、あれを思い出したせい?」
キョーコは俯いたまま小さく頷く。
「……私にとってはあれが去年のバレンタインの思い出なんです。恥ずかしいけど、大切な、大切な」
ぽそりぽそりと、キョーコは自分の想いを語り始める。
「さっきはそれを思い出して、恥ずかしいけど幸せだなって。去年と同じだけど違うキスをもらって、素敵なチョコレートをもらって、幸せだったのに」
「うん……」
「それなのに、アイツとのことをわざわざ思い出させるんですもん。私、敦賀さんに言われるまできれいさっぱりアイツとのことは忘れていたのに!」
「うん……」
「幸せだったのに、台無しです!酷いです、敦賀さんっ!」
顔を上げたキョーコの目には、うっすらと涙が浮かんでいる。
けれどその涙は、決して悲しみからくるだけのものではないというのは、真っ赤になった顔が物語っている。

蓮はさっと足を崩すと、キョーコを抱き寄せた。
「ごめん。こんな大事な日に、大事な娘(こ)を泣かすなんて、最低だね、俺は」
「最低、なんですっ!」
蓮の服に顔をうずめるキョーコ。閉じ込めた腕から逃げようとはしないことに、蓮は安堵を覚える。
「ごめん」
「謝ったって許しません」
「じゃあ、どうしたら許してもらえるのかな?」
しっかりとしがみついた状態で許さないと言われても、説得力がない気がするなと思いながら蓮は尋ねる。
キョーコはしばしそのまま黙っていたが、やがてそろりと顔を上げて蓮を見た。

「うわがき、してください」
「え……」
「アイツとの記憶。敦賀さんが上書きしてください」
一瞬何を言われたのか理解できなかった蓮だが、すぐにその意味を理解する。
キョーコに潤んだ瞳でお願いされて、蓮が断るわけがなかった。
「了解」

蓮は手を伸ばして、四葉のクローバー型のチョコレートをつまみとる。
そしてそれをキョーコの口に運び、キョーコはそれをすんなりと受け入れる。
「それじゃあ……いただきます」
「どうぞ……んっ……」
蓮の唇がキョーコに重なり、すぐにするりと蓮の舌がキョーコの口内に侵入する。
そのままチョコレートと一緒に、キョーコの舌を絡め取る。

どのくらいそうしていたかはわからないが、ゆっくりと蓮の唇がキョーコの唇から離れていく。
激しいキスに顔をこれ以上ないくらいに真っ赤に染め息が上がっているキョーコに、蓮は優しく微笑みかける。
「甘くて、おいしかったよ」
「そう、ですか……」
「もう一つ、もらってもいいかな?」
「……どうぞ」

蓮はまたチョコレートを一つ、箱から取り出す。
今の自分たちの気持ちを表すような、真っ赤なハートのチョコレート。
蓮はそれをキョーコの口に入れると、再び唇を重ねた。


幼いころからほのかな思いを抱いてた娘のファースト・キスを目の前で奪われ。
渦巻く嫉妬と戦いながら、お礼と称して頬にキスを贈るのが精いっぱいだったほろ苦いバレンタインから一年後。
蓮が愛しい娘と「恋人」という関係になって迎えた今日、2人の苦い思い出は、全て甘い思い出へと書き換えられる。

それはまるで蕩けるチョコレートのように。
またこれ以上はないくらいに、甘い甘い、バレンタインデー。

【END】

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蓮誕があまりにもしょっぱくてメロキュン参加もできなかったのでバレンタインは甘くするぞー!とか思ってたらとんでもないことになりましたよね、っていう。
砂吐きながら書きましたとも。

散々策士と言われた蓮さんですが、実は前編のあれはうっかりだったと(笑)
でもきっと、キョーコさんに食べさせたチョコレートの順番には意味があると思われます。
天然策士、敦賀蓮。キョーコさん相手には策に溺れ気味?

つきあって一カ月以上も経つのに、キョーコさんが「敦賀さん」呼びなのは単なる私の好みです。
蓮さんにはキョーコさんをどう呼ばせるか悩んだ末に決められなかったので、ごまかしておいた!(笑)


企画参加、ドキドキしたけれど楽しかったですー。
主催のみなさま、足を運んでここまで読んでくださった皆様に感謝!