ぽかりと空いた時間に手にしたのは
「その日の前に」重松清著(文春文庫)
「昨日までの、そして、明日からも続くはずの毎日を不意に断ち切る家族の死」
「日常の中にある幸せの意味を見つめる連作短編集」
亡き夫の記憶がまざまざと蘇り、一気に読み進め、思いっきり泣きました。
これまでの重松さんの作品で印象深いのは「とんび」。
「とんび」がTBSで放送されたのは、夫が亡くなってから間もない時でした。
突然の事故で妻を失った夫が、葬式直後に、妻のものを勢いよく処分するシーンで、涙が止まりませんでした。
というのも私も同じことをしたからです。
亡くなった人のものを処分することに、後ろめたさを感じつつも、亡くなる直前まで身につけていたパジャマや毛布、寝室に散らかっていたもの、一気にゴミ袋に入れたのを覚えています。
あの時の自分を振り返ると、何かにとりつかれたような、一心不乱で捨てていたような感じです。
もうこの世にいないという現実を受け止めるために、そして少しでも悲しみから逃れたいための行動だったのでしょうね。
そういう経験をした人でないと、あの描写で泣けない…
そこまで、重松さんの心情の描き方は深いです。
「その日の前に」も突然家族を失った人の心情、余命を宣告された人の気持ちや行動がすごくリアルに伝わってくる作品でした。
でも悲しいだけではなく、死にゆく人が凛としていて、遺された人たちの生き方が前向きで、泣いたあとはほっこり心が暖かくなる…
涙を流しつつ、改めて「平穏無事」「無病息災」の有り難さ(有ることの難しさ)を実感しました。