6月13日のこと、秋田県知事時代に企業誘致・雇用でお世話になった、ニプロ株式会社の創業者・佐野實前代表取締役社長の葬儀に参列するために大阪に行った。


 新大阪の駅前に降り立つと、タクシー乗り場が近距離と3km以遠の2つに分かれている。東京では見たことが無い。


 会場までは3km以上あったので、そちらのタクシーに乗り、運転手さんになぜ分けているのかと聞いてみた。運転手さんの答えは、近距離はお客さんが乗るのを1時間程待たなければならない。3km以遠は2時間客待ちをしても2,000円前後の売上が出るから、私は3km以遠の乗り場で稼いでいるとのこと。


 それを伺って、大変だなぁと話したら、もう大阪も日本もダメだ。ますます沈んでいる。大阪はパナソニックやシャープの御膝元だが、テレビの生産は縮小され、技術は海外に持っていかれて、外国で作られた安い物が入ってくる。不景気で夜に飲み歩く人もまばら、食い倒れの街・大阪はどこに行ってしまったのか…と言う。この元気の無さが、今の日本の姿を端的にあらわしている。そんな思いを巡らしながら葬儀会場に足を運んだ。


 佐野前社長は85歳でお亡くなりになられるまで生涯現役の社長として働き続けた人だった。人生訓も社訓も「意欲」。そして社長室には「無尽蔵」と掲げておられた。創業以来一貫して、人間の持つ無尽蔵の可能性を信じて、途切れぬ意欲をもって会社経営を続けて来た人であり、飄々とにこやかで素晴らしいご遺影であった。


 そのお姿に対面して、可能性を信じて意欲をもって進むことを教えられた一日だった。



【無尽蔵】文字通り「尽きることの無い蔵」が原義。
      仏教では「仏の無限の功徳」のたとえとする。