チュークの夜は、さわがしい。

若者がバイクでとばすとか、そんなことではない。

ホテルは海辺にあるので、海風が鳴る。


一本しかない道路の向こう側は、山と森。

足を踏み入れられない領域だ。


夜になると、人通りは絶える。

森と、海しかなくなる。

月が出る。


もはや人間の時間ではない。

ケモノのたぐいの時間である。


夜眠れないとき、ときどきベランダに出た。

風が吹いて、ものがカタカタなる。

ただならぬ雰囲気だった。


チュークの夜は、明かりも少ない。

都会のように、昼の延長のような夜ではない。

はっきりと明確に昼と違う夜である。


その闇の中、住民は、いまだ呪術的な世界に生きている。

彼らの中には、ブラックマジックが普通に存在する。

黒魔術である。


私たちが滞在していたあいだにも、17歳の若者が原因不明の病気でなくなった。


住民は、黒魔術に違いないと噂しあっていた。


だがキリスト教は、黒魔術を信じてはいけないと教えている。


キリスト教徒の母親は、息子に黒魔術を解く、呪術をさせなかった。


チュークの女性なら、誰でもその呪術を知っているという。

ただ、病院の薬では治らない。

森に入って、新鮮な薬草を集めなければならない。


少年の母親には、周りの人が再三、呪術を施すように言った。

しかし母親はキリスト教を信じるので、かたくなにそれを拒んだ。

とうとう少年は死んだ。


母親は、少年の遺体が墓場に運ばれるとき、その車に追いすがって、ごめんなさい、と言って泣いたという。


「いまごろ謝っても、もう遅いのに」


と住民はあきれ返っていた。


チュークには黒魔術がある。

それは誰でもかかるし、かけることができる。

チューク人の怒りをかわないように、くれぐれもご忠告する。