(前回までのあらすじ。ホーチミン空港に着いた一行は、アオザイ姿の職員の導きでタクシーに乗った。何とかホテルにたどり着き、一息つく)


私たちの泊まった通りには、安ホテルがびっちりと立ち並んでいた。裏通りには、すずむしの巣みたいにやたらとホテルが乱立している。


ヴェトナム人の家屋感覚は、猫みたいである。こちらの感覚だと、ひさしにしか見えない屋根が玄関だったりして、元気に人が出入りしている。工事中のホテルもいくつかみたけど、二階部分をつくるのに、丸太をつっかえ棒にしていて、曲芸にしかみえない。


香港のB級アクション映画まがいのシーンがあちこちで見れる。7階くらいの高さの建物から、となりのビルにおもちゃみたいなはしごで渡っていったり、見ていて飽きない。サルティンバンコとか中国雑技団が裸足で逃げ出すような光景が日常。


ホテルに荷物を置いた私たちは、カフェにご飯を食べにいった。

イタリア料理とヴェトナム料理がどっちも食べられるという、ものすごくいい加減なカフェだった。二人ともフォーとベトナムコーヒーを頼んだ。


フォーは簡単に言ってうどん。鶏か豚か牛が選べる。手軽な食べ物で、ハズレがない。どことなくシャム猫に似ている店員が料理を持って来た。ヴェトナム人はみんなスタイルがいい。


ヴェトナムコーヒーは一風変わっている。アルミ製の抽出器とカップが運ばれてくる。ものすごくゆっくりと落ちるコーヒーの水滴がカップいっぱいになるまで、じーっと待たなくてはならない。これが滅法おそい。


ぽた・・・・・・・・・・・・ぽた・・・・・・ぽた


えーい生ぬるい! 短気を起こして飲もうとしても、カップの下の方にちょびっとたまっているだけ。なぜ、ベトナムはあれだけバイクは爆走してるのに、コーヒーだけは牛歩戦術なのか。このはやさとぬるさのチャンポン具合が、戦争大国アメリカをたたき出したヴェトナム流外交術の源なのか。


じーっとコーヒーのたまるのを待っていると、フォーがさっさとのびていく。あわててすすり、添えられたししとうみたいなかけらを何気なくかじった。


が、がらいっっ・・・・・・!!


問答無用に辛い。タイで唐辛子には慣れていたはずなのに。何だこのひとかけらで三人必殺みたいな辛さは。新しいテロの一つか。


それも。可愛らしく野菜サラダみたいに盛ってあるから、余計にまぎらわしい。てっきりお口直し程度のピーマンか何かだと思ったじゃないか。鼻水がだらだら垂れ、涙がぼろぼろこぼれ、ゆうに一分くらいは廃人状態だった。


ヴェトナムには、こういう地雷みたいなのが、あちこちに仕込んである。安心しきって旅を楽しんでいると、いきなり冷や飯をがつっと食わされる感じ。


やっとたまったコーヒーを口に含むと、こゆい!! 何だこのサービス精神満点のこゆさは。水で薄めてやっとブレンドくらいの濃さになる。ふう。少し食事するだけでも骨が折れる。全く・・・


次の日は市場に行くことにして、ホテルで休んだ。口の中にコーヒーの苦さと唐辛子の辛さがごたまぜになってて、外は朝までバイクの洪水。もう何でもいいや、と少し肩の荷が降りた気がしました♪