チェンマイ三連戦の初日は終わりました。
高校生たちに日本の歌で応戦し、結果は五分五分といったところ。
次の日は市内でコンサートです。
何があるかはわからないのが海外公演。
受付の椅子で猫が寝てたりします。
現地スタッフとは、言葉は30%くらいしか通じない。
全て直感だよりです。
何しろタイは瞬発力が勝負。
一ヶ月前から念入りに計画したからといって、当日全部ダメになったりします。
前回冷や汗をかいたのは、日本でつくってきたカラオケCDがならなかったこと。タイと日本では規格が違うのか、CDRが「キューン」というだけで、いっこうにはじまらなかった。
そんなこともあろうかと、用意していた同じ内容のMDが使えて事なきを得ました。
しかしCDRがダメとわかったのが本番20分前。
さすがに心臓バクバクでした。
そんな怖い経験から、何があっても驚かないようにしていた私たち。
それでもハプニングに襲われることに・・・
小西さんの習字の師匠が、その公演のために、立派な横断幕を書いてくれていました。
きれいな明朝体で、きらきら輝いているかのよう。
それを後ろに歌えば、下手でも上手くきこえることうけ合い。
いや、センセイの歌が下手だといってるわけじゃなくてね・・・
用意もばっちり整って、いよいよ幕が上がりました。
小西さんも司会と通訳のために待機してくれています。
センセイがピアノのカラオケで日本の歌を歌います。
この日のために日本から持参した、とびきりの着物が映えます。
曲は二曲目三曲目とつづき、ようやく会場の雰囲気も打ち解けてきました。フィナーレは木村天山オリジナル、さくらの歌。待ってましたとばかりにCDスイッチオン。今日も私は後ろでCDいじってます。
自身満々に歌いだすセンセイ。だがピアノのオケがどんどん進んで、センセイの歌は見当違いのところを歌っている。
これはヤバイ! NHKののど自慢で、入りをミスるおばちゃん状態だ。はやく知らせないと・・・
あせって機材室の小窓から、必死に合図を送る私。
思いっきりうでで「×」をつくって、右に左に身体を振る振る。
またもやジェスチャーゲームです。
目をつぶって自分の世界に入りかけていたセンセイも、やっと異変に気づきます。
チ・ガ・ウ!
チ・ガ・ウ!
腹話術の人形みたいに、口をパクパクさせる私。ぎょっとして見つめるセンセイ。手で4拍子をとりつつ、一生懸命口パクで歌詞を伝える。
センセイは「ふふふ~ん♪」となにくわぬ顔をしつつ、やっと歌を曲に合わせました。
「はなびら 散るよ
さくらの はなびら」
と歌ったその直後。
絶妙のタイミングで、
はらり・・・
横断幕が宙に舞いました。
本当に、演出なのかと思うくらいにばっちりの間合い。
ひらひら、と桜の花びらのように落ちる横断幕を、スローモーションのように見つめる私。
次の瞬間。
べちゃ。床の上に横断幕が落ちました。水面におちる桜吹雪のようにはいきませんでした。どうひいき目に見ても台風でふっとんだ布団。
タイにはピーという、お化けみたいな、精霊みたいなのが、そのへんにごろごろいます。祠みたいなのがたくさんあるんです。
きっと、そのピーの一匹が、自分もコンサートで目立とうと、いたずらをしたのでしょう。
小西さんの笑顔が硬直している。
けっきょく横断幕はそのまんまで公演終了しました。
哀れ横断幕。
いや、散り際は美しかったぞよ、横断幕。
そなたの奮闘、しかと見届けた!
・・・と感慨にふけっていると、書家の先生、じきじきに頭を下げに来られました。
「本当に申し訳ない」
「いえいえ、とんでもありません、こちらこそ、気が付きませんで」
お互いに謝り合戦をしつつ、ひそかに思いました。
横断幕、落ちた方がゼッタイによかった、と。
ドリフで金だらいが落ちるようなもんです。
せっかく金だらいを用意してるのに、落とさないのはもったいない。(立派な横断幕を金だらいと一緒にしてるわけではないですが。比喩です、念のため)
わざわざ海外まで行って興行してるんだから、ハプニング大歓迎です。いやむしろ何もなかったら面白くない。
次の公演では本当に金だらいを用意しようか、センセイが歌詞を間違ったらボタンを押して「クワ~~ン」と頭におちるようにセットしようか、とか余計なアイデアが浮かんだ私でした。
