アメリカの教員に対する能力給(Merit-pay system)によって、学生の学力がアップした、という内容の記事&研究レポートについて。

 

Merit Pay for Teachers Can Lead to Higher Scores for Students, a Study Finds

 

Teacher Merti Pay and Student Test Scores: A Meta-Analysis

 

今日は久々にアメリカの能力給システム(Merit-pay system)についてのリサーチで、 紹介するのはそのリサーチに関する記事(いつもながらEducation Weekから)とそのリサーチレポート自体を参照し、この研究内容、そしてアメリカの能力給について話を進めたいと思います。

 

<Merit-Pay(能力給)システムとは?>

 

初めに、能力給システムとは?ですが、

 

パフォーマンスの良い教員に対してボーナスを支給する制度

 

とまあ読んで字の如くの制度です。アメリカでは、生徒の学力を上げるために先生のパフォーマンス向上が必要不可欠、との認識の下、先生のやる気を促し、担当する生徒の学力が向上した証としてボーナスを与える能力給制度を導入する動きがあります。そもそも(州や学区によって一概には言いづらいものの)一般的にアメリカの教員の給料は

 

ー教員指導経験年数

ー最終学歴(大卒か、修士号か、博士号か?の学歴の高さ

 

の2つによって決まります(*州によって昇給の度合いは様々ですが・・・)。ただ、教員年数が長い、そして学歴の高いからといっても生徒の学力向上が必ずしも達成されているわけではなく、教育政策を取りまとめる側としては、それ以外の方法で学力向上が可能か?ということで、能力給制度が注目され始めた、という背景があります。となると、気になるのは

 

この能力給制度が実際生徒の学力向上を可能にしているのか?

 

という根本的な疑問で、これに対して様々なリサーチが行われている、というのが今回の話です。

 

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アメリカ全体の話しでいうと、ブッシュ&オバマ政権下で100以上の研究資金という名で、20億ドル以上(2000億円以上)のお金がワシントンDCを含む30州政府以上で投資されています。

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<Merit-Pay:リサーチ内容>

 

今回のリサーチ。能力給制度によって生徒の学力が向上したか?についてのリサーチレポート(又は研究論文)・過去44個分をまとめて一つのリサーチとして発表したもの(専門的な用語で言うと、Meta-analysisという統計学の分析方法が使用されています)。44のリサーチに共通するResearch Question(リサーチを行う上で答えるべき目標・質問のこと)は

 

ーTo what extent does teacher merit pay affect K-12 student test scores? 

(教員への能力給が小中高の生徒のテストスコアーにどれだけ影響を与えているか?)

 

ーTo what extent do results vary across study and program characteristics, such as individual versus group incentives? 

(個人レベル・集団レベルの能力給といった、それぞれの研究・プログラムの特徴に応じて、リサーチ結果がどれだけ変化しているか?)

 

の二点。44のリサーチの中には、その他Labor Market(労働市場)との関係を調査しているものもあれば、教員のモチベーションの関係を調べているものなど様々ですが、上記の2点が44のリサーチに共通するリサーチ上の答えられている質問。

 

さらに、44全てのリサーチはこの能力給システムが学校レベル、学区レベル(School District)、州レベル、又は国レベルで行われたものであるということ(実はこの44のリサーチの内、いくつかはアメリカではなく、他国で行われたリサーチを含んでいるので)、能力給制度の効果を調べる際に教員が担当した生徒の英語・数学のテストスコアーが用いられていること、リサーチ上のアプローチとして(恣意的ではなく)ランダムに集められた(又は選ばれた)教員・生徒のサンプルであることが上げられています。

 

その他、データ分析上不明瞭な所などあれば、それぞれの研究・リサーチを行った研究者本人に連絡を取るなどし、不明瞭なままであったものは除外されており、その他様々なプロセスを経た結果、44のリサーチを扱うに至った、というのが今回の研究の経緯です。

 

<主な研究結果>

 

注目すべき結果として、

 

ー教員への能力給制度によって学力向上が達成されたケースもあれば、そうでない結果もあった。

 

ー能力給制度による学力向上があったリサーチを見ると、教員個人よりは、集団レベル(個々の教員の昇給云々より、学校レベルでのボーナス支給といった、教員個人個人より教員が複数いる学校やそれ以上の集団にフォーカスした能力給制度)の方が、より大きな学力向上が達成された。

 

の二点。他方、このリサーチレポート、どんなレポートにも付き物の限界・欠点(Limitations)もあり、

 

能力給で得られるボーナスとなる金額がいくつかの研究では具体的に明記されておらず、能力給の金額が明記されているリサーチでも、各地域ごとの物価の違いを考慮されておらず、ボーナス額も各リサーチまちまちなので、統一して分析はされていない。

 

44ものリサーチを集めて研究結果をまとめる以上、仕方ないことですが、この能力給におけるボーナスは、下から26ドル、上は2万ドル(約210万円)など金額にかなりの差があります。

 

さらに、一回限りのボーナスから、年収が上がったものまで能力給でも様々な形式があるので、どんな能力給が最も効果的か?という所までは特定できませんでした能力給制度が行われた期間、どんなガイドラインで実施されたのか?、教員以外の学校スタッフは能力給制度についてどれだけ詳細な通知を受け、理解していたか(又は彼らも能力給制度の下で教員のヘルプを行っていたかどうか?)などなど、大まかな結果はある程度はっきりした反面、細かいことは今回のリサーチでは明らかになっていない点が今回のリサーチの欠点と言えば欠点になります。

 

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興味深い結果として、一つ全米レベルで行った能力給制度のリサーチで、リサーチの対象となった教員の40%は、自分が能力給制度によってボーナス支給を受ける対象になったとは知らなかった、ということが分かっていて、能力給システムが生徒の学力向上の直接的な理由とは限らないかも・・・と考えられます。

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<今後の研究課題>

 

今回の能力給システムで結果が出た(つまり生徒の学力が伸びた)リサーチ。今後の課題(つまり今後のリサーチで調べないといけないこと)として、

 

1.どんな能力給制度が(生徒の学力向上を達成した上で)効果があったのか?また、それぞれの能力給制度でどれだけ効果が違うのか?

 

2.能力給システムで結果が出た教員がどのようなことを行って生徒の学力向上を達成させたのか?

 

の大きく分けて2点。今回のリサーチは(再度念押ししますが)能力給によって先生のやる気を促し、生徒の学力向上が可能かどうか?の一点に特化したリサーチで、細かいことまでは(44ものリサーチをまとめたリサーチレポートなだけに)分かっていません。それ故、今後上記のようなことが分かってくれば、より教育政策上役立つリサーチになるのでは、と思います。

 

というわけで、今後も興味深い研究レポートがあれば、このブログで紹介したいと思います。