生徒の出席率(アメリカでは欠席率:Absenteeism Rateと表示)とアメリカのAccountability政策についての3回目。

 

Chronic Absenteeism Could be Low-Hanging Fruit for ESSA Indicator

 

Lessons for Broadening School Accountability under the Every Student Succeeds Act

 

アメリカのAccountability政策とChronic Absenteeism(慢性的な欠席)の話しの三回目(今日がこのネタの最後です)。

 

<ESSAの指標に必要なこと>

 

過去2回のブログで、アメリカ最新のAccountability政策、Every Student Succeeds Act(ESSA)、そしてESSAによって義務化された、パフォーマンスの低い学校を特定するために5つの指標を設けること、その5つ目の指標としてChronic Absenteeism(慢性的な欠席:1年間の学校日数の10%かそれ以上欠席すること)を用いること、これらの説明をしてきました。一応、過去二回のブログの要点のおさらいをすると、

 

"Accountability requires that the fifth indicator be comparable statewide, and thus have a common, statewide definition. "

Accountability政策によって、5つ目の指標は州内で比較可能なもの、つまり州内全体で共通する定義であること)。

 

定義・・とは、つまり、この指標が州全体で共通した分析・計算・測定方法で行われること、という意味で、要は州内全ての学校に公平な指標であること、という意味です。

 

また、常に批判される学力テスト等の指標と異なり、Chronic Absenteeismのデータ(=生徒の学校出席状況のデータ)は全学校に存在するデータなので、指標としては使いやすく、学校間のパフォーマンスの違いを示す指標として最適、ということが特徴です。

 

さらに、学校に出席・欠席は直接、学業成績や卒業状況に影響を与えるので、指標として用いても批判は少なく、学校・学区内でChronic Absenteeismを下げる(=学校をサボらせないようにする)努力等取り組みやすいので、指標としては加えるべき、これがリンク先の結論です。

 

<Chronic Absenteeismの問題点>

 

では、このChronic Absenteeismを指標として用いても全く問題がないのか?というと、そんな訳ありません。紹介したリンク先のレポートは肝心の主要問題点をさほど大きく取り上げていないですが、重要な問題・課題等もあり、そちらもきっちり取り上げると、

 

(問題点1:Chronic Absenteeismの評価基準)

 

”the discrete threshold for chronic absenteeism gives no incentives for schools to reduce a student’s additional days absent”

(慢性的な欠席に対して設けられる、個々の基準値では、各学校が生徒の欠席日数を減らす動機づけに全くならない)

 

意訳しても分かりにくいので、説明を加えると、このChronic Absenteeismよりひどい欠席率(=学校日数10%以上の欠席)になっても、(学力テストでProficiencyレベル、Basicレベル等ある一定の基準値に基づいた、明確で複数のレベルが設けられていることとは異なり)、Chronic AbsenteeismはChronic(慢性なレベル)なったかどうか?の1点の基準のみです。

 

それ故、Chronic Absenteeism以上の欠席率になっても、Chronicになっている・・・という評価のみで、学校側がプレッシャーに押されて酷い欠席状況を食い止める、明確な動機付けは存在しません

 

この話、学力テストと比較すると分かり易くて、テスト結果は一般的に4レベルほどで報告されます(全米共通学力テストPARCCは4レベル、もう一つのテスト・SmaterBalancedは5レベル)。生徒の学力を測定し、その結果を4ー5レベルの基準値で判定する、テストはそういう風にデザインされています。

 

他方、Chronic AbsenteeismはChronic Absenteeism以上は、どれだけ悪くなってもChronic・・・とのみの表示で、(学力テストのような)バリエーションがなく、学校側が努力する特定のイニシアティブがない、という指摘です。

 

*****

都市部学区でChronic Absenteeismのレポート(毎年報告義務あり)を3年も連続して担当した私個人の経験を言うと、(リンク先のレポートはChronicかどうか?の基準値1つという指摘ですが)、私が働いていた学区は、この欠席率の基準に相当するカテゴリー、実は4つありました・・・笑。

 

私の学区では、私が担当する4−5年前から、

 

Low(欠席日数5%以下) - 

Medium(欠席日数5%以上、10%未満)

Chronic(10%以上、20%未満)

Excessive(20%以上)

 

の4つのカテゴリー(基準)でした。どういう経緯でこの4つになったか知りませんが、このカテゴリーで学区内の全学校を分析、また学年別、性別、学校別、人種別などで分析&報告しました。

 

言わずもがな、学力テストでProficiencyレベルに達しているかどうか?が一つの合格ポイントであるように、Chronicに達しているかどうかが、欠席率の明確なポイントでした。

 

私の勤務した学区は州都市の学区だったので、州政府からの注目度が高く、学区のトップである教育長はもちろん、学区内の偉いさん方は皆、このChronic Absenteeism Rateが毎年順調に下がったかどうかを大変に気にしていました。

 

とはいえ、この4つのカテゴリーがどう生徒の学業成績と関連性があるかどうかまでは突っ込まれないので(つまり、欠席率が毎年順調に下がったかだけが極めて重要だった)、Chronic Absenteeismの割合が学業成績にどれだけ影響を与えていたかは分かりません(というか、分かりようがない理由が実は存在してたためなんですが、それは後で書いてあるので、このブログを最後までお読み下さい・・・)。

 

ということを考えると、リンク先のレポート、ある有名な組織のリサーチャー3名が関わったみたいですが、(私の学区のレポートのようなカテゴリーについて言及が全くないので)多分3人とも学区(School District)での仕事経験がないのでは?と勘ぐってしまいます。

***

 

(問題点2:データ管理&システム)

 

2点目ですが、このトピックの一回目のブログで言及した話しの関連です(シカゴの高校が出席記録を改ざんした話)。確かに、学校現場で記録改ざんはあると思います・・・が、これだけではありません。

 

Chronic Absenteeismのデータ分析での問題は、(私の学区での仕事経験からズバリ言うと)

 

欠席日数のカウントの仕方&それに関連した規定

 

これです。実はアメリカ、学区内のデータシステムで"欠席”記録されるのは、その学区、州政府によって別々のルールがあるのです。

 

私が学区で働いた事例を取り上げると、その州都市に位置する学区、生徒がデータベース上欠席となるのは、

 

その日の3時間目の授業まで欠席だった時(言い換えると、3時間目から学校に来たら、データベース上なんと出席扱いとなる)

 

というふざけたルールがありました(笑)。これ、嘘みたいな本当の話で、学区の学校に通う全生徒のデータ管理するデータベース上で言うと、

 

3時間目から出席した生徒は、遅刻のカテゴリー(多分日本人の方には馴染みない単語だと思いますが、Tardyと呼ばれる)にチェックがデータが入り、他方、学校出席の欄には、出席のデータとして記録され、欠席(Absence)とデータ上記録されないデータシステムとなっています。

 

私が学区のChronic Absenteeism Data Reportという名の欠席状況のデータ分析&レポートを初めて作成した2013−14年度の時、まさかこんなルールで出席&欠席がデータ管理されていると知らずにデータ分析していました。

 

先程Chronic Absenteeimsが学業にどれだけ影響を与えているか分析しようがない・・・とお伝えしたのはこれが理由です。

 

例えば、ある生徒がデータベース上出席でも、実際は1,2時間目は欠席して3時間目から登校してても、データベース上はきっちり”出席”となります・・・が、仮にその欠席した1,2時間目に学力テストで測定される英語、又は数学の授業があったとしたら、どうでしょう?

 

データベース上は出席、でも実際は1−2時間目にあった数学、又は英語の授業を欠席しているため、こんな(実際エラーのある)データで生徒の出席状況と英語&数学の学力の関係性を分析してもエラーが出て、信用できない分析結果しか出せない、

 

これが学区の(実際に働いていたために知ってる)内部の問題です。こんな誤魔化ししても欠席率下げたいか!!と思いますが、残念ながらこれが現状です(しかも学区上の公式な規定だからビックリです)。

 

ただ、興味深いのは私が働いた3年目の2015−16年度、学区内のルールは変わない代わりに、州政府のルールが変わり、我々がデータ分析する(欠席・出席状況を含む)以前のオリジナルのデータを全て一度州政府に送り、州政府がデータクリーニング等を行って、学区に再度提供し、各学区が通年通りのデータ分析&レポートを行う、

 

となりました。つまり、私のようなデータ分析のリサーチャーがアクセスできる欠席・出席の判断された記録を集めたデータ以前のデータ(=各授業の出席・欠席状況は各授業担当の先生がネット入力し、データベース上自動的に出席&欠席が記録されるシステムなんですが、その出席&欠席の記録される前のまさにオリジナルのデータ)を州政府に送り、州政府が規定する方針でクリーニングされたデータが戻ってきました。

 

すると・・・です。州政府の規定は

 

(3時間目から授業に出席すれば出席扱いだった学区と違い)2時間目までに出席しないと欠席にする

 

でした。慌てたのは学区側。そんな厳しくなった(といってもまー普通のような気もするが)新ルールの下にChronic Absenteeismをデータ分析したら、案の定、

 

過去5年連続で減少していたChronic Absenteeismの割合が上昇(欠席率なので、上がるってことは悪くなった、ということです)

 

という結果に・・・(笑)。そりゃー、これまで出席扱いだった3時間目から来た生徒が欠席扱いになれば、欠席率が上がるのは当然であり、現場がこんな生ぬるいルールで出席のパフォーマンスが上がっていると主張してたこと自体おこがましいですが・・。

 

というわけで、ポイントは

 

出席・欠席の記録にする(学区を超えた)州規模での共通したルール規定(規定がなければ、州法で規定を設ける)

 

これがデータ記録かいざんを防ぐことと同じくらい重要です。私のようなデータ分析の専門家が学区のデータベースからアクセスして得るデータは、あくまで学校の各先生が入力したデータをIT部門が(3時間目から出席した生徒が出席扱いでデータに記録されるような)プログラミングされたデータなので、こんな訳分からないことが起こります。

 

ちなみに、私が勤務してた学区のデータベースシステム、全米のかなり多くの学校で採用されているデータベースシステムで、他の多くの学区も同様の問題を抱えていることになります。

 

<総論>

 

最後に総論として、ESSAの指標としてChronic Absenteeismが機能するのか?についての個人的意見を少々。

 

今日のブログで長々と述べたデータベース上の規定(州法、又は州法改正)を設ける必要性はもちろんですが、リンク先のレポート、Chronic Absenteeismの指標としての適正を少々過大評価しているような印象を受けます

 

生徒の学力が全てテストで測定されるわけではない、等の批判を受ける学力テストバイアス(不公平な判断・結果)を受けやすいと言われるアンケート調査結果と異なり、出席・欠席はそのような不公平は判断となることも少なく、テストスコアーのような一部分の能力のみが測定されるようなこともない・・・、これが(ざっくり言うと)Chronic AbsenteeismをESSAの指標として適切であると主張する、今回のリンク先のレポートの意見です。

 

・・・が、果たしてそうか?というと、そうでもない、と私個人としては思っています。話を整理しますが、Accountability政策であるESSAにおける、各指標を設ける目的は、

 

各学校のパフォーマンスを把握し、パフォーマンスの低い学校を特定する

 

です。(学力テストで、全生徒を英語&数学でProficiencyレベルを達成させる、という最終目的だったNo Child Lfet Behind Actと異なり)ESSAの目的は学校レベルでのパフォーマンスを把握することです。学力テスト一辺倒だった前Accountabilityシステムでは、スタートラインで基礎学力以下だった学校が、基礎学力レベルに達するという学力向上に成功しても、Proficiencyレベルに達していない、という理由でパフォーマンスが低く評価されました。

 

その反省から、過去2回のブログでお伝えした通り、Proficiencyレベルに達したかどうかの一つの指標から、複数の指標に改正され、さらに学力テスト一辺倒から、他の指標も導入することになった、ということになります。

 

しかし!!です。Chronic Absenteeism(慢性的な欠席率)にしても、実は学力テストと状況が似ていて、始めからみんな同じスタートラインからヨーイドン!!ではありません。貧困レベルの高い地域は元々ひどいChronic Absenteeismを抱えています(逆の言い方をすると、裕福な地域は元々欠席率は低く、Chronicなどほぼない・・・つまり、欠席率において全ての学校が同じスタートラインでパフォーマンスを評価されるわけではない)。Chronic Absenteeism Rate(欠席率)を指標を導入し、Chronic(慢性レベルかどうか?)の指標に仮にすると、Proficiencyレベルに達したかどうか?の指標で判断する学力テストと同じような不公平な指標となり得ます。

 

さらに・・・です。学力テストが指標として批判される理由として、

 

学力テストスコアーの上昇・減少は、(先生の授業の質・学校の学習サポートなど)学校内の影響だけでなく、学校外の影響(家庭での影響・学校終了後の学習等)といった学校のパフォーマンスとは無関係の要因もあるので、学力テストの結果で学校のパフォーマンスを判断するのはおかしい(エラーがある)

 

という指摘です。確かにこれはもっともな指摘で、学力テストの伸びから学校の影響で伸びた分だけ抽出して分析しようってのが、Value-Added Measure(Model)と言われる分析方法(最近まで私がブログで書いてたStudent Growthの話しがまさにこれ)で、専門家の間でもそれが理論上可能かどうかずーと議論されています。

 

学力テストの伸びがこのように学校独自の取り組みや先生の影響といった学校内のパフォーマンスに関係するものから(家庭内の取り組みといった)学校外のものまである・・・というのは、このChronic Absenteeismにもがっつり当てはまります!!!

 

私が働いた学区の例で言うと、学区内に州内ナンバーワンと言われた高校がありました(その高校だけ突出して大学進学率が高く、学力テストの結果も突出してました)・・・が、そんな教育熱心な家庭出身ばかりの生徒が多く集まる高校だけあって、(興味深いことに)学力テストは教育上おかしい、という信念なのからか、(州法で規定された、必修である)州規模の学力テストをボイコットする、そのボイコット率は実はこの学校が一番高かったのです!!

 

教育熱心な家庭出身者の多い生徒を抱えるこの高校。学力テストに対しては批判的な立場を取る保護者が多く、テスト実施日だけその立場上子供を休ませる・・・なる行動に出ており、テスト実施日だけに関して言うと、なんと学区内全ての学校で一番高かった・・・という結果です。もちろん、学校1年を通した欠席率が学区内で一番低いのはこの学校なので、このテスト実施日のみ欠席者の多いのは、学校のせいではもちろんなく、保護者の意向であり、これを学校のパフォーマンスとして査定されると、学校側は大変困ります。

 

上記の例は少々極端かもしれませんが、それくらい保護者の影響で欠席率は大きく変わるので、Chronic Absenteeismが学力テストよりも公平に学校のパフォーマンスを査定できる・・・というのは何か違うような気がします。最低でも、

 

Chronic Absenteeismで学校のパフォーマンスを学力テストよりも公平に評価できるとは限らない。

 

言い換えると、

 

Chronic Absenteeismで学校の影響だけを評価できることはなく、学力テストとあまり大差ない

 

こんなことが言えると思うのですが、リンク先のReportはそのようなことを言及されていないので、学区のデータ分析に携わっていた私からすると、なんか肝心のポイントが欠けている・・・そんな印象を受けたレポートでした。

 

というわけで、そんな感じで、次回以降、最近大きな動きがあった、Accountability政策、Every Student Succeeds Actについて書きたいと思います。