学力の伸びを測定する方法の一つで、過去の膨大なテストスコアーのデータから、次のテストで獲得するであろうスコアーを予測し、予測されたスコアーと実際に取った点数を比較することで学力の伸びを判定するResidual Gain Modelについて。

 

A Practitioner's Guide to Growth Models

 

前回に引き続き、学力の伸びの測定方法の3回目。今日はまた別の測定方法のである、Residual Gain Model。

 

<Risidual Gain Modelとは?>

 

英語にすると一見難しそうですが、理屈は単純で、

 

How much higher or lower has this student scored than expected given his/her past scores?

(生徒の過去のテストスコアーから分析された(これくらい上がるであろうと)予想される点数と比べてどれくらい高いか低いか)

 

というもの。以前にも説明しましたが、例えば、

 

ある生徒がテストで100点中50点だとしたら、過去に同じテストで50点だった全ての生徒の次のテストで取った点数を全て集計し、50点だった生徒の次のテストのスコアーの伸びを計算します(それを英語でExpected score)。そして、ある生徒が取った点数の伸び(その生徒の点数は英語でObserved score)と過去に50点だった全ての生徒の伸び、すなわちExpected scoreを比べ、その生徒の伸びの方が過去に50点だった全ての生徒の伸びの平均値(=Expected score)より高ければ、+(プラス)で、低ければー(マイナス)と表記される

 

というのが、この学力の伸び、すなわちResidual Growth Modelです。

 

去年(前回)より今回のスコアーがどれだけ上がったか?を測る他の学力測定モデルとは決定的に異なり、Residual Growth Modelは予測される学力の伸びと比べているのがその特徴です。

 

<Residual Gain Model:学力の伸びの測定方法>

 

まずは、下記のグラフを見て下さい。

グラフの下(つまりX軸)はGrade 3(小3)の学力で、左側(Y軸)はGrade 4(小4)の学力です。今回は例として8人の生徒のデータ(つまり8人分の小3&小4の時のテストスコアー)が含まれています。

 

小3のテストスコアーが345点に3人、350点に3人、そして355点に二人で、後は小4の点数に応じてそれぞれ黒点が表示されています(例:小3に345点だった生徒3人が小4のテストスコアーが335点、355点、そして360点の位置に黒点があります)。

 

斜線はそれら8人の生徒の点数を平均化したもの(もちろん、実際のテストでは8人どころか数千人、数万人のデータですが)。この線が先程説明した、過去のテストスコアーか分析された上がるであろうと期待(予想)されるスコアー(Expected Score)を表したものです。では、上記のグラフを使った実際の学力の伸びを計算すると、

グラフにある様に、上がるであろうと予想されたスコアー(Expected Score)よりも上(つまり学力が過去小3で350点を取っている生徒に比べて、4年生時の学力が予想されていた伸び以上の伸びている)で、小3に350点取っている生徒の4年生でのスコアーの平均が364点で、比較されている生徒の実際の点数が375点、つまり+11点、と表示されます。これが、Residual Gain Modelの学力の伸びの測定方法です。

 

<Risidual Gain Model:主な特徴>

 

このRisidual Gain Modelですが、いくつかの特徴があるので、そこにも言及すると、

 

(1)グループレベルでの分析結果

 

グループレベル(例:各担当教員別、学校レベルなど)での分析結果が使えるのが、このモデルの強みであり特徴で、既に使用したグラフで説明すると、

分かり易く、2つのグループに分けられていますが、グループA(Expected Scoreを示す斜め線の上にある黒線で囲っている3つの点)の平均が約9点(つまり、Growth Scoreが9点)。グループB(黒の点線で囲っている、斜め線の下)の平均が約−12点。説明しやすいように点が3つずつのグループですが、実際これが数十人、数百人になっても平均値の計算方法は同じで、分かり易く、説明しやすい点がこのモデルのメリットです。

 

(2)Adequate Growth(十分な学力の伸び)とは?

 

実はこのResigual Gain Model、一つ重要な問題・欠点のような特徴があって、

 

学力が十分向上した(Adequate Growth)と呼ばれる基準値を規定しにくい

 

という少々困った問題あります。アメリカで使用される学力テストは、(このブログでは再三再四お伝えしている通り)Proficiencyレベル、と呼ばれる、各学年で規定される学力の基準値があり、この基準値に達しているかどうか?で学力を判断します。

 

他方、Residual Gain Modelになると、この学力向上(Growth)は過去のデータからExpected Scoreが導かれ、このスコアーと比べて上か下か?の話しになるので、学力が十分あると認定されるProficiencyレベルとは別の話しになります。

 

一応、専門的観点からResidual Gain Modelでも似たような基準値を設けることは可能らしいですが、設定するとかなり大変で、なかなか使い勝手が悪いみたいです。

 

(3)一定しない学力の伸び(Growth Gains)測定基準

 

最後に一つ、このモデルの欠点。過去のテストスコアーを計算して、Expected Score(掲載したグラフの斜線)を導き出すこのモデル、これは過去のテストスコアーなので、毎年過去のデータを加えて再度計算することでExpected Scoreもまた大なり小なり変化します。

 

ということは、学力の伸びの数値もまた変化し、毎年毎年使用し、数年レベルでどう学力向上が変化したか?を計算するには不向きになります(つまり一定していない)。数値上計算して学力向上を測る客観性がある一方、長期レベルで使用するには不向きの特徴があります。

 

<総論>

 

学区でのデータ分析した経験から言うと、アメリカのテスト会社から送られてくるテスト結果のデータファイルにはこのResidual Gain Scoreで計算されたスコアーも含まれていて、いつもへーって思いながら眺めていますが、実際の教育政策で使われたことは見たことがなく、専門的には興味深い分析方法ですが、これまた実際に現場に役立つような活かし方は?となると、少々疑問です(といっても、まーどこかで活用されているとは思いますが・・・)。

 

というわけで、奥が深い、学力の伸び測定方法でした。