前回ブログで紹介した、アメリカ・ニューメキシコ州の教員評価システムを巡る訴訟問題について。

 

Victory in Court: Consequences Attached to VAMs Suspended Throughtout New Mexico

 

Judge Suspends Penalties Linked to State's Teacher Eval System

 

New Mexico Lawsuit Update

 

前回のブログで長くなってしまったので、全部書かなかったアメリカ・ニューメキシコ州の教員評価システムを巡る裁判。実は、既に判決は下ってて、

 

原告(ニューメキシコ州教員組合側)の勝利で、ニューメキシコ州政府の実施されている教員評価システムの差し止めが決定

 

ということでした。今日はその判決の詳細等をお伝えしたいと思います。

 

<教員評価システムを巡る問題>

 

まずは前回のおさらい。

 

2012年にニューメキシコ州政府が始めた教員評価システムを巡って、地元教員組合、そしてそこに全米レベルの教員組合も加勢し、教員評価システムの差止めを求めた訴訟を起こしました。

 

不公平で、欠陥のある、信用できない結果を生む教員評価システムは教員に悪影響を及ぼす

 

という趣旨の声明を発表し、州政府VS教員組合の裁判が始まりました。裁判中、教員評価システムで行われるデータ分析等に詳しい専門家の意見(紹介しているリンク先のブログの管理人・Aurdrey Amrein-Beardsley教授など)を参考人招致し、専門的観点からの証言を集めるなど、それはそれはがっつり裁判でも戦った今回の訴訟。

 

結果として、原告側である教員組合が勝利する結果となりました。

 

<判決:教員評価システムを差止め>

 

教員組合が勝利した今回の訴訟。今後この教員評価システムが妥当であると判断されない限り、教員評価で最も低い結果を得た先生に対するあらゆる処罰を行うことを一時的に禁止する、差止め要求が受理される結果となりました。

 

教員評価で低い評価結果だった先生は教員免許の更新や昇進等ができなかったのですが、今回の差止めが受理されたおかげで、その心配はなくなりました。

 

判決内容では、学区によって教員評価結果がコロコロ変わっていて、一貫性がない。さらに、理解しずらいシステムである、とその難解さを指摘。結果的にそれが差止め要求が受理される根拠となりました。

 

ちなみにこの裁判結果。実は、元々原告側の教員組合の要求は

 

教員評価システムの完全停止

 

でした・・・が、裁判の後半にはその要求を変え、

 

教員評価システムで最も低い結果を受けた教員が、Improvements Planと呼ばれる特別トレーニングを受けるなどの処罰を受ける規定の一時停止

 

とその要求をかなり和らげていきました。その結果、今回の一時差し止めが受理され、教員評価システムも一時的にストップ、となりました。

 

<教員評価システムの問題>

 

では、この教員評価システム、専門的観点(つまり、データ分析、統計学上の観点)から見た時、何がどう問題か?というと、

 

1.Validation is Needed

 

Validation・・・というと、日本語にしずらいですが、統計学上言えば、(その結果が妥当であると)検証すること、こんな感じでしょうか。

 

Value-added Measures(VAM)というテストスコアーから先生生徒の学力向上(又は減少)の貢献度のみを引き出して数値化する、というこの手法。確かに一見画期的な分析方法ですが、100%正確・・・とは言えません。

 

結果にある程度のエラー、限界があるのは付き物で、その当たりをはっきりさせろ!!というのが判決内容です。

 

2.Uniformity is Required

 

統一性が取れていない、という意味で表現された”Uniformity Required”。どういう意味で教員評価システムの問題点を指摘してるか?というと、

 

”the combination of factors, data, and elements are not easily determined and the variance from school district to school district creates conflicts with the [state] statutory mandate”

(教員評価を下す判断材料である要因・データ・その他諸々の要因等が簡単に定まらず、それ故に各学区ごとに教員評価のバリエーションが州法的に決まっている規定と一致していない)

 

上記の英語がUniformity Requiredmの意味ですが、かなり日本語訳が難しいのでさらに説明を加えると、

 

教員評価を行う際、担当生徒のテストスコアーはもちろん、それ以外にデータ(保護者のアンケート調査結果、教員の出勤日数など)も織り交ぜて評価を下すのですが、それが各学区ごとにまちまちで公平(又は共通)ではなく、州全体で共通する指標で教員評価分析を行っておらず、学区によってそれが異なるなら(つまり、テストスコアー以外に用いられるデータが学区ごとに異なり、共通ではないため)、Uniform(統一)ではなく、それは公平な評価システムとは言えない

 

ということです。

 

3.Transparecy Missing(透明性がない)

 

これは単純に、教員評価システム、分析方法等が複雑で理解し難く、透明性(分かり易く、分析方法、扱ったデータ等々がアクセスでき、何がどうなったか?ということがはっきり公表されているか)が確保されていない。

 

さらに、教員評価分析を行った分析方法、データ分析結果等が妥当である、というプロセスもまたはっきりしていない、という問題点を総括して透明性がない!という判決内容です。

 

4.Consequences Halted

 

4は上記3つの理由を踏まえて、教員評価結果によって行われる、いかなる対処・処罰の停止。つまり、

 

上記3つの問題を抱えた教員評価システムの結果生じる・行われる事項(雇用・昇進等の判断、Improvement Planなるトレーニングを受けさせる決定等)の一時停止

 

というわけで、教員評価システムに不備があるという判決から、この不備のある教員評価結果に基いて何も行ってはいけません!!という裁判所の判決が出た、ということです。

 

<判決後の教員評価>

 

この判決。実は一つ重要なポイントがあり、

 

教員評価システムの完全廃止、という判決内容ではない

 

ということ。既に述べた通り、最も低い評価を受けた教員への処罰・対処等を一時差止めする、というものであって、教員評価自体はなくなっていません

 

不公平・不備等がある教員評価システムに基づくあらゆる次の一手を禁じます!!という内容で、逆に言うと、その不備・不公平性を取り除けば、まだ教員評価システムを維持する・・・という可能性も残っています。

 

それ故、言うまでもなく教員組合はこの判決には納得しておらず、この裁判実はまだ続いています・・・。で、さらなる裁判はなんと今年の10月・・・。州政府側が色々と理由をつけて、スケジュールがなんと今年の10月まで先延ばしになってます。

 

というわけで、今後、この教員評価システムが完全廃止になるのか、それとも不備等を修正し、改めて復活するのか?それは今後の裁判結果次第となります。どうなることやら・・・。