アメリカ・ニューメキシコ州の教員評価政策が、地元教員組合を含む複数の組織から訴訟を起こされている、というニュースについて。

 

Lawsuit in New Mexico Challenging State's Teacher Evaluation System

 

New Mexico's local news article

 

Experts differ on test-based evaluations at NM hearing

 

Victory in Court: Consequences Attached to VAMs Suspended Throughout New Mexico

 

New Mexico's Teacher Evaluation Lawsuit: Day Three

 

(最近、学力の伸びの話しが二回連続だったんで、全くテーマを変えて)アメリカ・ニューメキシコ州で2013−14年より実施されている教員評価システムが教員にとって不利益に働いている、としてニューメキシコ州の複数の地元教員組合が連合してニューメキシコ州政府に対して訴訟を起こしました。

 

<ニューメキシコ州の教員評価システムとは?>

 

では、この教員評価システム、どういう内訳か?というと、教員評価100%の内、

 

50%ーValue-added measures(通称VAM)と呼ばれる(先月ブログでアップしたStudent Growthでも少々ふれた)生徒のテストスコアーを分析し、アップした点数の内どれだけ教員の貢献度があるかを数値化する分析方法の結果

 

残り50%ー教員の上司(通常、校長、教頭先生など)による参観を通した評価結果、教員の出勤率、生徒&保護者によるアンケート調査結果など

 

という振り分けです。教員評価結果は5段階に分かれていて、上から

 

Exemplary

Highly Effective

Effective

Minimally Effective

Ineffective

 

言わずもがな、一番下のIneffectiveは良くないわけで、この評価を受けると、Professional Growth Planと呼ばれるトレーニングを受ける必要が生じ、最悪の場合は解雇(Fire)ということにつながります、・・・が、こんな内容に教員組合はブチギレ状態で、訴訟を起こしました。

 

<教員評価システムの問題とは?>

 

この教員評価システム、紹介した記事等を読む限り、色々な問題があって、

 

ー生徒のテストスコアーのデータとその生徒を指導した先生のデータが一致しない(教えていない生徒の点数で評価された先生がいるらしい・・・)。

 

ー評価のデータの一つである先生の出勤率が正しくない(病気やその他妥当な欠勤理由があるのに、普通に欠勤扱いされた・・・とのこと)

 

ー学生対象のアンケート調査のデータが行方不明状態。

 

ー教えた生徒が明らかに学力アップしているのに、その指導した先生の評価結果がかなり低い・・・

 

などなど。過去に教員評価制度はテキサス州、テネシー州で実施されているんですが、記事等によると、それらよりもひどい、とのこと。上記の理由が本当なら、そのような欠陥状態で分析された教員評価結果は信用できない・・・というのは確かに納得の話です。

 

<教員評価を支持する側の意見>

 

元々この教員評価システム。施行された2013−14年度は、ニューメキシコ州の99%の先生がEffectiveという合格レベルの結果が出ていて、「システム自体機能しているのか?」ということから始まり、より本格的に始動したら、教員組合の怒りをかった・・・なる感じですが、それでも支持する学区の教育長はいて、彼らの意見は、

 

ーIneffectiveの結果を受けた先生は、Professional Growth Planなる教員指導のプログラムに参加することによって、スキルアップが期待できる

 

ー学区、学校の先生が注意すべき先生が誰か分かる

 

と、前向きに捉える関係者がいるのも事実。今まで何の評価システムもなかった所、このような先生のパフォーマンスを知る機会を得て、教員のスキルアップも期待できる・・・というのもあるかもしれません・・・が、この評価結果によって、教員の解雇につながると、教員不足の学区は教員の補充が大変と、違う意味での危惧があるのも事実ですが・・・。

 

<総論(個人的見解)>

 

最後に・・・ですが、私の学区(School District)での仕事経験、州都市の学区であるが故に州政府の教育省とのやり取りもあった経験から言うと、

 

(ニューメキシコ州の教員評価制度の問題点)なーーーーーーんか胡散臭い

 

ってのが本音です。確かに、教員評価の50%を占めるVAM(Value-added Measures)が統計学&Psychometric上問題がある(というか正確に言うと、専門的観点から不備がある)ってのは事実だと思います・・・が、それ以外のいくつかの問題点が個人的にひっかかります。例えば、

 

(1)生徒のテストスコアーのデータとその生徒を指導した先生のデータが一致しない

 

ー>学区のデータ分析の職務経験から言うと、生徒の(テスト結果を含む)個人データはアクセスできるし、決まった一定のフォーマットの中で整頓されたデータとして保存されていますが、先生(教員)のデータはそうではありません

 

実は先生のデータは基本入手不可能です!!!(教員&学校関係者のデータは学区内のリサーチオフィスの我々でも入手不可能で、管理は同じ学区内の関係者のみです)。

 

実はここが肝心で、生徒の個人データ、そして(各授業の担当教員の名前を含む)生徒の出席した授業&各クラスの成績のデータ、そして教員関連のデータの3つは全く別のデータとして管理されています

 

そのため、生徒のデータファイルと先生のデータファイルを一致される作業(すなわち、各生徒がどの先生から英語、数学等を習ったか?など、複数のデータファイルを一つにする作業などなど)は結構苦労させられた経験があります。しかも、日本と違って、生徒が各授業を登録して授業を選択するアメリカの教育システムでは、

 

ー生徒が学校最初の週に授業を受けて、次週から別のクラスに変更(再登録)

 

ー変更はするが、担当の先生が生徒の変更届けのような報告をネット上行っていなかったりするアメリカは生徒の成績、授業登録等全てネット上で行っているため、成績も全てデータベース管理されています

 

というようなことはぶっちゃけ日常茶飯事で、先生によってはコンピューター上に正確に入力して報告する人もいれば、完全に間違って入力している(例:授業を1週目だけ出席し、次週より別の先生の授業に再登録しているのに、1週目の先生はその変更届けの入力をせず、その生徒は1年間同じテーマの授業を二人の先生から受けている・・・なるデータ上不正確な情報で保存される・・・など)ことなど十分あり得る話です。それ故、生徒と先生のデータが一致しない・・・というのは、データシステム&そのデータベースを管理&運営する学区側の仕事であり、そのようなデータを引き継いだ州政府の問題か?といえば、正直分かりません。もしかしたら、(州政府にデータを報告する以前の)学区内の問題である可能性も十分あります

 

(2)評価のデータの一つである先生の出勤率が正しくない

 

ーー>上記の問題なんて、正直先生が正確に報告していれば防げるミスであって、教員評価システムの問題ではなく、データベース運営&管理上の問題、又は入力する先生側の問題の可能性が高いような気がします(間違っても、教員評価システムの問題ではありません)。

 

(3)学生対象のアンケート調査のデータが行方不明状態。

 

ーー>これも、アンケート調査の分析(Survey data analysis)の仕事を学区で担当していた僕から言わせると、アンケート自体は各学校が行っています。

 

それ故、アンケート調査のデータ収集のプロセスは間違いなく、

 

(もしアンケート調査がオンライン上なら)

各学校が責任を持って、生徒にアンケート調査を学校内のパソコンで行わせ、それが自動的にオンライン上集計される・・・ということは、アンケート調査のデータが行方不明っていうことは、考えにくい・・・。

 

(アンケート調査が紙によるものなら)

各学校が責任を持って行った後、各学区がこれまた責任を持って、州政府にアンケート調査結果のデータを報告する。

 

いずれにせよ、州政府の問題か?というと必ずしもそうとは言い切れません。ましてや、教員評価システムの問題か?というと、これはデータ管理上の問題であって、これで教員評価システムがおかしい!!というのは少し違うような気がします。

 

というわけで、こんな感じのニューメキシコ州の教員評価システムを巡る訴訟問題、続きがあるのですが、結構今日のブログが長いので、次回に続きを書きます。