生徒の学力の伸び・向上(Student Growth)を測定する際の盲点・注意すべき点について。

 

A Practitioner's Guide to Growth Models

 

前回同様、学力の伸びの話しですが、前回お伝えした三種類の測定方法の最も一般的なもの、How much growth(Gain Score Model)つまり、

 

二回以上テストを行い、そのテストの点数の伸び下がりを計算するモデル

 

です。アメリカではこのモデル、一番理解しやすいモデルですが、他方最も使用されているモデルではない・・・ということもあり、今回少々突っ込んで説明することで、このモデルの利点、欠点等を理解してもらえれば幸いです。

 

<Gain Score Modelとは何か?>

 

このモデル、それ自体は理解し易いのですが、一応紹介したリンク先の本のイラストを引用して説明すると、

イラストの表では、2010年にGrade 3(小学3年)で350点で、翌年の2011年Grade 4(小学4年)で375点となり、25点アップ、この25がGain(獲得点数:Gain Score)がすなわち、学力の伸び(Growth)となります。

 

Gain Score Modelの場合、二回以上テストを行い、その点数の差がそのまま学力の伸びとなり、必要なデータも、比較する2回分のテストスコアーだけです。

 

比較するテストスコアーのテストの形式が共通(例:テストのスコアーが共通して0−100点満点のテスト、テストの設問の形式が共通、テスト時間も同じ、などなど)であるなどの条件を満たしている限り、スコアーの比較は可能となります。

 

<Gain Score Modelの問題点:平均値>

 

このシンプルで解釈しやすいGain Score Model、一見使い勝手が良さそうに思えますが、そうとはいきません。

 

学力の伸びのデータが教育政策上用いられる時、生徒レベル(生徒一人ひとりの学力の伸び)ではあまり使用せず、Classroom-level(各先生レベル:教え子全員の平均)、Grade-level(学年レベル:その学年の生徒全員の平均)、School-level(学校レベル:学校全体の平均)といったグループレベル(集団単位)で使われます。。。がこれが時には誤解を招く恐れがある、という欠点があります。以下のグラフを見て下さい。

これ、2つのグループの学力向上の平均値を表した例ですが、2つのグループともにGain Scores(上がった平均点数)は2です・・・・・が、平均して2になっただけで、実際の内容は(上の図表に表された通り)違います。

 

グループ1は3人とも上がった点数2による全体平均2,グループ2は二人は上がったどころか−2で下がってます・・・が、一人10点上がったため、平均したら2になっただけです。

 

つまり、グループ平均にすると、実際のグループの学力状況が正確に反映されない、という欠点があります。

 

<上がった点数の持つ意味>

 

このシンプルに上がった点数を見るGain Score Model。どれだけ学力が上がったか(How much growth)も確かに重要ですが、実はもう一点重要なことがあり、

 

Whether the growth is "adequate" or "good enough"

(その学力の伸びが十分であるかどうか?)

 

上がった点数が仮に50点でも、大多数が100点近く上がっていた場合、50点でも良くないし、逆に上がった点数がたった2点でも、大多数が逆に下がったなら、2点でもAdequate(十分)なわけであり、単純な上がった点数だけでは判断できません

 

そのため、基本その上がった点数が十分か判断するために、

 

1.Scale-based standard setting

 

上がった点数を、Negative(逆に下がっている、又は不十分)、Low(低い)、Adequate(十分)、High(かなり上がった)、のような基準値を設けて判断するパターン。

 

2.Norm-referenced standard setting

 

1の基準値を設けない代わりに、他と比べて十分かどうか?という判断。前回のブログで説明した、一回目のテストで30点なら、30点の人たちだけで2回目のテストの上がった点数を比べる・・・というように、一定のグループと比較して十分かどうか判断するパターン。

 

3.Target-based standard setting

 

これは、ある一定の目的に対して十分かどうか?というパターンで、典型的な例が、College-readiness(大学に行く準備が学力的にあるかどうか?)。College-readyな人ならこれくらいの学力向上が必要・・・という基準値があり、その基準値に対して十分かどうか?を判断するパターン。

 

<Gain Score Modelの予期外の問題>

 

最後にGain Score Modelの対応しきれない問題点について。紹介した本の中でもいくつかのUnintended Consequences(想定外の結果)が述べられていますが、(説明の難しい専門的な問題点を除き)困った問題は、

 

学力の低い生徒と高い生徒では、同じスコアー分上がったとしても、同等の解釈ができない

 

という難点があります。これってどういうことか?というと、

 

0−500点満点のテストで学力の低い生徒が仮に100点から50点、学力の高い生徒が400点から50点上がったとしても、この50点がどちらも同じ50点の意味合いがあるか?というと、(今の専門的な見地から言うと)残念ながら同じではありません

 

ここが困った話で、基本的に学力の高い人ほどGain scoreと呼ばれる上がった点数が高く、学力の低い生徒が50点上がるのと、高い生徒の50点が同じ扱いをされると、そこに貢献した先生、学校側はたまったものではありません。つまり、学力の低い生徒たちの一点と学力の高い生徒の一点は違うが、このGain Score Modelではそこが反映されない、という問題です。

 

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日本の学力テストの観点から言うと、100点満点のテストで、10点から20点に10点上げるのと、80点から90点に10点上げるのが同じではなく、アメリカのテスト分析ではこの同じ10点でも重みが違う・・・その重みの違いを数値化して誤解のないようにしようとしう専門的技術がありますが、その特殊な分析が中々うまくいかないのがこの世の常・・・。

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<総論>

 

今日はStudent Growth(学力の伸び)の分析方法の一つGain Score Modelについて話を進めてきました。解釈が一見簡単で良いモデルと思いきや、他方結構細かい点がおろそかで、誤解を招く恐れがあったりと、単純に学力の伸びを数値化できない背景がここにあります。

 

というわけで、次回以降まだ説明していない別の分析方法について説明したいと思います。