生徒の学力の伸び(Student Growth)の測定方法に違いについて。

 

A Practitioner's Guide to Growth Models

 

今日は最近のブログとは異なり、Student Growthと英語表記される、生徒の学力の伸びについての話しで、リンク先は記事ではなく、本です(PDFファイルとして読むことが可能)。

 

生徒の学力向上を謳っているアメリカの教育改革ですが、単に「学力の伸び」と言っても、実は専門的に正確に測定するのは単純ではなく、意外に奥が深いので、それを今日は紹介したいと思います。

 

<Growth(学力の伸び)とは何か?>

 

アメリカの専門家でも結構誤解している人が多い、Student Growth Modelと呼ばれる、学力の伸びを測定するモデル(又は分析方法)。今日はそれを正確に理解してもらうため、3つの観点からこのStudent Growth Modelを説明したいと思います。

 

1.Growth Description: How much growth?

 

一番分かり易い、学力がどれだけ伸びたか?ということ。個人単位でも学校単位でも、二回以上テストを受ければ、スコアーの伸び&減少はあるので、それを単純に計算するモデルで、一般的にStudent Growthはこれだと思われています(実際はこれだけではないですが・・・)。

 

2.Growth Prediction:Growth to where

 

大抵の人が誤解しているモデルがこれで、過去のスコアーからどれだけ上がったか?が1のモデルなら、この2は現在この点数なら次回はこれくらい上昇するだろう!!という過去から現在ではなく、現在から未来へ!?みたいなモデルです。

 

この分析方法の場合、最初のスコアーが仮に20点なら、過去に20点を取った生徒が、次回以降どれくらい学力が向上したか?を過去の膨大なデータから計算し、その過去のデータから導かれた、上がるであろうと予測される点数と比べて、どうか?ということで、意外にこっちの方もStudent Growth Modelとしてはよく使われています。

 

3.Value-added: What caused growth?

 

3番目が一番難解なモデルで、学力の伸びが何によって起こったか?という原因を突き止めるモデルで、実はこれもGrowth Modelの一つだったりします。

 

<学力の伸びをどう測定するか?>

 

では、先程の3つの観点から、1つづつ具体的にどう測定(又は計算)して学力の伸びを弾き出すのか?を説明したいと思います。

 

1.Gain-based Model

 

いわゆる最も一般的なモデルで、テストスコアーの単純な伸び(例:50点から55点なら、5点の伸び)を測定したモデル。先程の1(How much growth)のモデルです。

 

2.Conditional Status Model

 

Gain-based modelと違って、意外にも種類が多いモデルがこれ。先程述べた2番目に述べたGrowth to whereに相当するもので、基本は既に説明した

 

過去に同じ点数を取った生徒の膨大なデータを用いて、一定の傾向を既に計算し、その計算(又は分析)された数値と比べてどうか?

 

というモデルです。実はこのモデル、(今日は簡単にだけ説明し、詳細はまた別の回でします)大きく分けて二種類あって、

 

(2−1)過去のデータから予測されたスコアーと実際の点数の比較

 

既に説明した、前回の点数が仮に20点なら、20点を取った過去の生徒の膨大なデータから、次回上がるスコアーを既に計算されていて、その上がるだろうと予測されるスコアーと実際に取った点数を比べて、学力が上がったか、下がったか分析するモデルです。

 

(2−2)Student Growth Percentile

 

このブログでも以前説明したことがあるモデルなんですが、よくPercentile Rank(100分率の順位)みたいな訳語になり、意味不明ですが、要は、

 

テストを受けた全生徒を、点数に基いて1−100位の順位に振り分け、その順位内で二回目の点数も(一回目同様)1−100位の順位をつけ、同じ順位内で点数が上がったか、下がったかを測定するモデル

 

です・・・が、まだ不明瞭なので、例を示すと、

 

数千人の生徒が受けた一回目のテストで仮に45点で、それが全体を100位内のランキングにした際、60位だったとします(データ上は、60.0と表示されます)。そして、その45点を取った生徒が500人いたとします。そうすると、2回目のテストで、一回目45点だった生徒500人内で、また新たに1−100位のランキングを2回目のテスト結果で表示します。それが仮に20.0と表示された場合、

 

一回目のテストで45点だった500人の中で、上から20番目だった(つまり、2回目のテスト結果で自分より低い人が8割(この場合500人の8割なので400人)いる)

 

という解釈になります。これ、一見かなーーーーーり複雑な感じですが、使い方によってはかなり便利な数値で、なぜ便利?かはまた別の機会に・・・。

 

その他、同じ点数を取った生徒の伸びのスコアーだけでなく、それ以外の要素(Student Demographic Status、例えばELLの生徒、人種、性別など)も考慮して測定すると、より正確に測定可能となるモデルもあります。

 

3.Multivariate Model

 

これ、説明すると2よりもさらにめちゃくちゃ難解なので(がっつり統計学の専門的な話しになるので)、敢えて説明しませんが、アメリカの研究者内で流行っている、Value-Added Model(通称:VAM)もこのカテゴリーに入ってて、要は

 

テストスコアーから先生の影響でスコアーが上がった部分、又は下がった部分だけ抽出して数値化するモデル

 

という、ウルトラC級の分析方法です。スコアーが仮に80点から90点に10点上がった時、この10点を100%として、何%先生の影響で上がったかを統計上分析して導く、というものです。それをVAMといって、このMultivariate Modelの代表的な分析方法なんですが、実用性等まだ開発中で、まだまだ実際の教育政策上使用するには時間がかかります。

 

<総論>

 

今日はStudent Growth Measure/Modelと呼ばれる、学力の伸び測定方法の概略を紹介しました。学力の伸びをどういった観点からアメリカの専門家は分析し、定義しているのか?ということが少しでも理解してもらえれば幸いです。

 

ちなみにこのネタ、自分自身の専門分野の一つなので、今後もこのネタでさらにブログ更新予定です。