先日行われた、新アメリカ大統領ドナルド・トランプ氏から教育長官に任命されたBetsy DeVosさんへの公聴会での一幕について。

 

Barnum:The Growth VS. Proficiency Debate and Why Al Franken Raised a Boring But Critial Issue

 

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上記のリンク先の動画がどうも消された可能性があるので、動画は以下です。

Al Franken Questions Betsy DeVos on Proficiency vs Growth | ABC News

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Prof. Andrew Ho (Faculty of Harvard University)'s Twitter

 

トランプ新大統領が教育長官に任命したBetsy DeVosさんの公聴会(アメリカでは、任命された全長官が公聴会で質問を受け、公聴会後に議会での承認が必要)が18日行われました。本来もっと早めに行われる予定だった教育長官の公聴会が大統領就任式直前まで延期され、なぜ??とマスメディアが騒ぐ中での開催。

 

私も教育政策のリサーチャーの端くれとして様々な記事を見たのですが、正直「この人が教育長官で大丈夫?」と首をかしげるような回答が多く、かなり疑問が残ったこの公聴会。民主党上院議員・Al Franken氏がDeVos氏に訪ねた質問がなかなか興味深い指摘で専門家の間で話題になったので、ちょっとこのブログで取り上げます(というか、自分のど専門のネタってこともあったので・・・)。

 

<Growth VS Proficiency>

 

公聴会での実際のやり取りは上記最初のリンク先にあるので、それを見ていただくとして、話題となったトピックは

 

Proficiency VS Growth

 

Al Franken上院議員がBesty DeVosにしたこの質問が、この2つの違いに関するものでした。実はこの2つ、意外にアメリカ人の教育関係者でも誤解している人がいて、この2つは明らかに違います・・・が、次期教育長官のDeVosさん、この違いを全く分かっていませんでした。違いを言うと、

 

Proficiency (how many students meet a certain score deemed proficient)

(習熟度レベル・Proficiencyレベルと決められたレベルに達したかどうか?)

**上記の英語では何人の生徒がProficiencyレベルに達したか?と書いてますが、より正確に言うと、習熟度レベルに生徒の何割が達したかどうか?です)***

 

Growth(how much students improve)

(どれだけ生徒の学力が伸びたか?)

 

Proficiencyレベルに達している割合は単一年度(2016年なら2016年度で何%そのレベルに達しているか?)でレベルに達している割合を測定でき、Growth(学力の伸び)なら単一年度なら学校始めの時期と終わりの時期での伸び、又は2016から2017年度の2年間でどれだけ伸びたか?などの測定になります。

 

ただ、Proficiencyレベルに達した割合が複数年度でどう違うか?を見ることで、Gowthの伸びとして測定できないわけではないですが(例:2016年度でProficiencyレベルが40%で、翌年45%で5%上昇・・・)、これだと学校、学区、州レベルでは比較できますが、生徒個人レベルでは、仮に生徒が二年連続Proficiencyレベルに達したなら、「二年連続達した」という情報のみで、実際どれだけ学力が伸びたか?は分かりません。

 

<Proficiencyレベルの問題点>

 

Al Franken上院議員はこの公聴会のやり取りの中で、「I have been an advocate for growth.」(私はずっとGrowth(学力の伸び)を(生徒の学力判断材料として)支持してきた)、と発言し、ややProficiencyについては好きではない感じでした・・・が、これが結構良い点をついてて、引用した記事で言うと、

 

What that means for proficiency is that schools that take disadvantaged students — those in poverty, those who come in at low achievement levels — will look much worse........if they (=kids) start out at a very low level, that might not show up on proficiency measures.

 

と指摘。上記の英語をわかり易く説明すると、

 

Proficiency(習熟度)レベルに何割の生徒が達しているか?で学校評価を下す場合、元々学力の低い生徒が多い学校(とりわけ貧困レベルの高い地域の学校)は、概してProficiencyレベルに達した生徒の割合(又は生徒数)が少なくなり、逆にそうではない、比較的裕福で賢い生徒が多い学校は、必然的にProficiencyレベルの割合が高くなり、これでは公平に学校評価をしたことにならない、

 

ということです。

 

更に言うと、

 

Proficiency is also problematic not just because it is a score at one point in time — referred to as “status” by researchers — but because it sets an all-or-nothing bar for students to reach. That means it doesn’t matter if a student just missed proficiency or scores way below it.

 

この指摘、実は今回紹介した二番目のリンク・ハーバード大学のAndrew Ho教授のTwitterでも指摘していて、

 

Learning is growth, not one-size-fits-all proficiency

 

と言っています。では、これどういう意味か?というと、

 

Proficiencyレベルに達したかどうか?という学力測定方法にすると、Proficiencyレベルの点数に達したかどうか?の一点のみで(引用した文では、All-or-nothing、又はOne-size-fits-allと表記)で、Proficiencyレベルに達しなかった場合、惜しくも達しなかった場合だろうと、全く達していない場合でも、関係なく”Not Proficient"のみの情報になってしまう、つまりProficiencyレベル以下の生徒の学力情報が乏しい。

 

ということを指摘しています。

 

<Growth Modelの問題点>

 

他方、リンク先の記事ではGrowth Model(学力の伸びを測る)の問題点も指摘していて、

 

Growth measures, particularly for individual teachers, remain controversial. They rely exclusively on test scores, which are limited gauges of school effectiveness, and which usually can’t be created in earlier or later grades.

 

上記の英語の意味を説明すると、

 

学力の伸びがどれだけ先生の影響によるものなのか?(どれだけ先生によって学力が伸びたのか?)を測るのに、テストスコアーだけでそれを判断するのには限界がある、まして、学力テストを行わない小学低学年(1−2年・・・アメリカは通常小学3年生からテストをする法律になっています)は学力テストを行っていないので、そのような学力の伸びを測ることはできない

 

という指摘です。さらにもう一点問題点が指摘されていて、

 

Schools are also not fully in control of how much students improve over time

 

これって要は、学力向上といっても、夏はSummer Schoolと言われる(アメリカ版)夏期講習会みたいなものがあり、数多くの生徒は参加し、新学期が9月から始まった時、Summer Schoolによって学力が上がったとしても、Growth Measureとしてデータ上証明できるか?は理論上極めて難しく、それを上記の英語では、”School are also not fullu inconrtol of....”と表記されています。

 

<2つの指標のメリット・ディメリット>

 

では、この2つをそれでもなお、生徒の学力判定材料としてなぜ各州政府がまだ使い、今後も使われるのか?というと、ある程度は意味があるから!!です。

 

専門家の端くれとして、リンク先の記事は少々間違っている情報もありますが、Proficiencyに達した生徒の割合を学校評価の指標にすると、どこの学校が(言い方悪いかもしれませんが)成績の良い生徒が多く通っているか?という点に関して、Growth Measure(学力の伸び)を指標にするよりも確実に正確な情報を表しています

 

単純な例で言うと、A学校、B学校の2つの学校(ともに生徒数100人とする)があり、A学校の70人がProficiencyレベルに達していた、つまりProficiencyレベルの割合70%、B学校が40人しかProficiencyレベルに達していなかった場合(Proficiencyレベルの割合4割)となり、A学校の方が成績優秀者が多く通っている、という点では正しい情報と言えます。

 

これがGrowth Measure(学力の伸び)なら、別の情報を提供し得る可能性があります。さっきの2つの学校の例で言うと、

 

A学校ー昨年度の学校全体の平均点65点ー今年75点なら、Growthは単純に10点

 

B学校ー昨年25点ー今年50点なら、Growthは25点となります。Proficiencyの割合ならA学校の方が優れている!となりますが、Growth Measureにだけフォーカスすると、B学校の方が優秀!!となり、(極端な話)評価が逆になります。

 

言い換えれば、Growth Measureなら、学校が生徒の学力向上に対してどれだけ頑張っているか?という点ではより正しい情報を表しています・・・が、他方、各学校に成績優秀者をどれくらいの割合で通っているか?という点では、Growth MeasuresよりもProficiencyレベルの割合の方が適切!!となります。

 

<総評>

 

Al Franken上院議員の質問、(質問、質疑の仕方はともかく)良い点をついていると思います。Besty DeVos氏が、K-12教育での教育政策で高い比重を占めるテストスコアー、学力テスト結果におけるProficiency等の知識がないなら、教育長官になった後、かなりお勉強をしないといけないことになります。

 

ともかく、リンク先の記事のポイントをまとめると、

 

How students are performing、つまり学生がどれだけの学力の有しているか?ということを知りたいならProficiencyの割合が適切

 

How schools are doing、つまり学校がどれだけ(学力向上に対して)頑張っているか?を知りたいならGrowth Measureの情報の方が適切

 

となります。いずれにせよ、DeVos氏が次期教育長官として任命されるかの採決は今週火曜日に行われます。