生と死における所作
車で帰宅途中、道路に子猫が座り込んでいて、慌ててブレーキを踏んだ。
車は大きく対向車線にはみ出して止まった。
子猫は、やや遅れて逃げていった。
心臓が大きく打って暫らく動けなかった。
帰宅した後、NHKのプロフェッショナル を見た。
旭川の病院に勤務する脳神経外科医が主役だった。
友人とも呼べるような患者をなんとか救おうとするが、手術は失敗する。
スタジオでの回想では、「彼の笑顔が浮かんできて」といって、泣いた。
もう何年も前の記憶が蘇ってきた。
やはり9月だったと思う。
前年机を並べていた同僚が、父親を亡くした。
仕事は相変わらず忙しく、いつもなら香典の立替を頼んで済ましてしまうところだが、
そうもいかない理由があった。
机を並べていた当時、
わたしは仕事でもっとも落ち込んでいたが、
彼はいつも明るく(ときには、どうしてそんなに楽しくしていられるのだろうと思うほどだった)
澱んでいる自分の世話まで焼いてくれた。
彼の実家は、山間部にあった。
車を走らせながら、彼のことを考えた。
彼は次男だったが、すでに家を離れ、長兄も遠くに家庭を持ち、
母親も亡くなられていたので、父親は一人住まいだった。
近所の人が、倒れているのを発見したときは、もう1日経っていた。
仕事で家を離れていたとはいえ、彼は自分を責めたのではないか。
土地勘はなかったが、通夜が行われている家は、すぐにわかった。
玄関で案内を乞うと、すぐに彼があらわれた。
わたしの顔をみると、笑顔で、遠くからよく来てくれたと言った。
御悔やみを述べるところが、言葉が出てこない。
弔問に来た筈なのに、こちらが泣き出してしまった。
睡眠不足が続いていて、感情が昂ぶっていたのかもしれない。
なぜか栄養ドリンクなどの飲み物を逆に頂いて、呆然としながら、職場に戻った。
死と向き合うとは、どういうことなのだろう。
家族とは、なんだろう。
人間の強さとは、優しさとは、なんなのだろう。
自分はなにもわかっていないと思った。